色々夢
□秋水の誓い
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夏侯惇たちが駆け付けた時、既に呂布軍と十三支の戦は始まっていた。
とは言っても、互角と程遠い戦力差である為、明らかに十三支側が劣勢である。
少し前なら、彼らが玉砕覚悟で飛び出したと思ったかもしれない。だが、彼らがそこまで短絡的でも悲観的でも無い事は分かっている。
それに、今は楊采も加わっているのだ。援軍を期待している彼女が無謀な戦いを挑む筈がない。
「みんなっ…!」
関羽が馬を走らせ、軍の隊列から飛び出していく。
突出するなと言いたいところだが、関羽は自由に動かせろという曹操の指示もあり、夏侯惇は軽く舌打ちするだけに止めた。
「兄者っ、見てくれ!」
夏侯淵が指を差しながら近寄ってくる。
遠くの山々が赤く燃えている。かなりの勢いで燃え広がっているが、自然災害とは考えにくい。
「…成程。炙り出されたわけか」
おおかた、十三支たちが潜んでいると思われる山や森に、呂布軍が片端から火を放った、というところだろう。
火に追われ皆で撃って出るしかなくなったか、それとも逃げ惑ううちに乱戦になったか。
どちらにしろ、最悪の状況であることには変わりない。
「よし。俺たちも行くぞ!!」
「分かった!」
関羽が戦い回っている為、既に呂布軍の一部が押され始めている。恐ろしい女である。
せいぜい利用させてもらおうと、その後に続いて制圧を進める。
「みんな! わたしの声が聞こえる!?」
「その声…関羽か!?」
関羽の呼びかけが繰り返され、それに呼応する声もちらほらと聞こえる。
夏侯惇からも、十三支たちがだんだんと集まり始めているのが見えた。何とも運がいい事に、彼らはこの辺りで戦っていたらしい。
が、その中に楊采の姿は見つけられなかった。
合流した唯一の人間は、長い髪を靡かせる長身の男。徐州の者でもましてや十三支でもないのに彼らと共に戦っている、お人好し過ぎる男だ。
彼は夏侯惇を見るなり驚きと喜びの混じった表情になった。
「夏侯惇! 援軍、恩に着るぞ!」
「…この進軍は貴様らの為なんぞではない。それより、楊采はどうしている?」
「…いや。実は俺もずっと探しているんだが、森の中で別れてそのままだ。恐らく、張飛と一緒にいると思うが…」
「そうか…」
この辺りの十三支たちはどうやら、趙雲を中心にして戦い抜いていたようだ。
辺りを見回した関羽が青ざめて呟くのが聞こえた。
「張飛まで…もしかして、もっと前線にいるの…?」
その可能性はおおいにある。しかも二人で大暴れしていそうだ。
内心で同意していると、夏侯淵が真剣な顔で夏侯惇を振り返った。
「どうする、兄者?」
「…行くしかないだろう。楊采を見つけろというのが曹操様のご命令だ」
曹操が合流するより先に、何としても見つけておかねばならないのだ。
「夏侯惇、わたしも一緒に前線に行くわ」
「好きにしろ。夏侯淵、この辺りはもう十分だろう。二手に別れよう」
「ああ、ここは任せて、兄者は先に行ってくれ!」
あらかじめ話し合っていた通り、夏侯淵に指揮を任せ、夏侯惇は向かってくる敵を斬りながら馬を進ませる。
ふと肩越しに振り返ると、関羽が付いてきていた。先程までの勇ましさが消え、不安が見てとれる。
「……」
楊采ならば気の利いた言葉の一つでもかけてやるのだろうが、生憎、夏侯惇には何も思い付かなかった。
「……ん? おい、見ろ!」
「え?」
「あれだ!」
敵を蹴散らしつつ、剣で指し示す。一ヶ所人が少し集まっている場所があるのだが、その中に猫耳が見えた気がしたのだ。
「張飛!!」
「あっ……姉貴い──!!」
関羽が駆けていく。仕方なく、夏侯惇も手伝って周囲の敵を散らせにかかる。三人がかりとなると、そんなに時間はかからなかった。