色々夢

□ハルカナルユメ
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「トキヤくん…?」
「薬…飲みましたか?」
「あ、はい…」

彼女には、友千香の言葉は聞こえていなかったようだ。
しかし、せっかく役割を与えられたのだから責任は果たすとしよう。

悪乗りのような気持ちも少なからずあったものの、トキヤはさっと腕を伸ばして春歌を引き寄せた。
頭を肩にもたれさせ、温めるように腕を巻き付ける。

「え…?」
「温めると良いと、たった今助言を頂きましたので」
「あ…あの…」

二人きりの時ですら、密着する事を恥じらい逃げてしまう彼女である。
友千香がいる目の前で一体どんな反応をされるだろうかと思ったが、意外にも春歌は離れようとはしなかった。
戸惑いつつも、体から力を抜いて身を預けてくる。しなやかな、女性らしい感触とわずかな重みがトキヤにかかった。

「…トキヤくん…温かいです」

心底ほっとしたように言われるとこそばゆい。
そうですか、と静かに返し、力を入れすぎないよう注意しながら春歌との距離をより縮める。

「横になりますか?」
「いえ…できれば、このまま…」
「わかりました」

素直な春歌の反応に微笑み、彼女の髪を手櫛ですく。
うっとりと目を閉じた春歌から、ほどなく規則正しい寝息が聞こえてきた。

しかし、まだ顔色はあまりよくない。恥じらいを忘れるほどだから、やはり辛いのだろう。
それでも今は幸せそうな穏やかな寝顔で、それに久し振りに触れた事でトキヤ自身も満たされていた。
触れたところから感じる彼女の全てに、愛しさが溢れだしてくる。

「ふーん」

不意に、面白がるような声が聞こえて、無意識のうちにキスしたいと思っていたトキヤはハッと動きを止めた。

いつの間にか友千香が目の前のローテーブルに肘をついてこちらを見ている。
トキヤは目を泳がせた。

「…なんです?」
「いえいえ。ちゃんと春歌のこと大事にしてるんだなって思ったら嬉しくて」
「…そう…ですか」
「うん。すっごくお似合い」

にこにこ笑う友千香の言葉に、からかいの色はない。いっそからかってくれればいくらでも対応できるが、真剣に言われてしまうと恥ずかしい。

「さってと! 仕事だからもう行くけど…春歌のこと宜しくね」
「ええ」

ありがとうございます、と春歌の代わりに告げると彼女はひらひら手を振り、颯爽と部屋を飛び出していった。
何度話しても好印象を受ける女性である。彼女が春歌の同室で本当に良かった。

「…時々、仲が良すぎて困りますけどね…」
「ぅ…ん…?」

つい呟いてしまったら、春歌が身じろぎしたのでハッとして口をつぐむ。
黙って窺うと、起きたわけではなかったようだ。それには安心したが、結構本格的に眠ってしまったようである。

「ああ…困りましたね…」

正直、トキヤも疲労困憊で余裕がない。春歌のぬくもりと相俟って、眠気はピークに達していた。
このまま彼女を抱き締めて眠りたい。しかしそれならソファではなくベッドの方がお互い楽に眠れるだろう。

とは言え今のトキヤには、それを実行するだけの力が残っていない。
ずるずると倒れこみ、春歌を抱きしめたままトキヤの体がソファに沈んでいく。
瞼はとうに閉じられ、既に夢の世界が見えはじめていた。

「はる、か…」

愛しさに溢れた小さな呟きは、時計の秒針の音に消されるほどで。
次に聞こえてきたのは、春歌と同じく規則正しい寝息だった。











(ごめーん、忘れ物しちゃって…)
(スー、スー…)
(うわっ…超絶に幸福な寝顔が2つ……仕方ない、毛布持ってきてやりますか)





20130420
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トモちゃん、かっこよくて好きです
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