色々夢

□ハルカナルユメ
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花火大会 (2/2)


トキヤが差し出した手を、ハヤトがおずおずと握り返してくる。その小さな手の感触にどこか懐かしさを覚えて、トキヤは目を細める。
あまり言葉が出てこないから、まだそんな年齢でもないのかもしれない。が、こちらの言うことは理解しているから、聡明な子なのだろう。
自分の幼少期はどうだっただろう。こんな風に、誰かと手を繋いで歩いた記憶はあったろうか。

なんとはなしに繋いだ手を軽く握ってみると、同じくらいの力で握り返された。試しに強く握れば、精一杯で応えようとしてくる。ふにふにとした柔らかな手が一生懸命握ってくるのがなかなかに面白い。
歩きながら強弱を繰り返しているうちに、ハヤトはすっかりその他愛ない悪戯が気に入ってしまったようで、次はどちらでくるのかと期待に満ちた目で繋いだ手を見つめている。

「ふっ…、足元もちゃんと見てくださいね?…ほら!」
「!」

言っている間にも小さな溝に足を取られそうになり、トキヤが寸前で引き上げる。それすらも楽しいのか、ハヤトはほとんどトキヤにしがみついている状態である。にこにこ笑っていて、先ほどまでの涙など無かったことになっている。
すっかり懐かれたようだ。
喜んで良いものかわからなかったが、怯えられるよりはずっと良い。

「…さあ、もうすぐ駅の方ですよ」

角を曲がるだけで、急に明るくなる視界。高いビル群に、目まぐるしく映像を映し続ける街頭モニター。
嫌な予感というのは本当によく当たるもので、彼らがそこに到着したとたん、その映像にはトキヤが映っていた。
商品の新発売を宣伝するものだ。それに合わせた新曲が流れており、映像中でもトキヤが口ずさんでいる。
さすがにこれは、ハヤトも気付いたかもしれないとそろりと視線を下げれば、彼もまたトキヤを見上げていた。横にいるトキヤではなく、映像の方だが。
そのハヤトの唇が、小さく動いている。映像と同じように歌っているのだと気付いて、トキヤは目を見開いた。
言葉はあまり話せないのではと思っていたが、なかなかに、彼の歌は音程も発音もとてもしっかりしている。
トキヤに見られているのを思い出した瞬間、真っ赤な顔でだんまりになってしまったのが少し残念なくらいだ。

「…君は…」

何を言おうと口を開いたのか、途中でわからなくなりトキヤも黙る。二人はしばらく、そのまま見つめあった。

自分にそっくりな少年。けれど、自分とは似ていない少年。
彼は、もしかしたら──

「──!」

柔らかく、しかしよく通るその声が彼の名を呼び、文字通り目を輝かせた少年が駆け出していく。
するりと、なんの抵抗もなく、今の今まで共にいたトキヤの横を、風のように走り抜けていく。

その背を追おうと振り向いて、トキヤはあっという間に少年を見失った。
雑踏の中、取り残されたのはトキヤの方だった。

けれど、人混みの向こうに見えた気がするのだ。
少年を抱き上げ、こちらに頭を下げる男性と、寄り添う女性が。

「…!」

浮かびあがった可能性も、胸を締め付けるように込み上げた思いも、結局言葉にはできなかった。そうなる前に消えてしまうくらい、一瞬のものだった。
まるで、夢から覚めたばかりのような、そんな思考のだるさだけが残っていて、トキヤはゆるりと首を振る。

「帰りますか…」

ちらほらと、すれ違う中には彼に気づく人もいる。あまり気にしないようにしながら、トキヤはまた、少年にしがみつかれたあの道を目指す。
花火はちょうど、フィナーレを迎えたようだ。
数年前に、彼女と共に花火会場を回ったのを思い出す。あの時は、その後皆で集まって花火を見上げた。
皆、忙しくして、今年はついに実現出来なかったけれど。

「来年こそは…」

無意識に、少年と繋いでいた方の手を花火に向けて重ねていて、トキヤは苦笑した。
彼は──彼らはちゃんと、来年も、その次も三人で同じ空を見上げているだろうか。

そうだと良い。
どうか、必ず、しあわせに。

小さな手の温もりを思い出して、トキヤはぎゅっと、自身の手を握りしめた。






20190806
──────
どうにか!書けました!!
内容は誕生日関係ない!!
夏をテーマにして何か描きたかったんですけど、その第一段でトキヤさんです!

誕生日おめでとうトキヤ!

お話にでてくるハヤトくんは……
未来からきたのか、過去からきたのか、ちょっとわかりにくい感じで書いてみました。
どちらでも、お好きな方で。


過去だとすると、別の未来に繋がる過去です。
未来だとすると、なにがなんでもこれからトキヤが実現させていく未来です。
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