色々夢

□ハルカナルユメ
18ページ/24ページ

◎那(砂)春【砂月消失編】2/4


目を覚まし、まだ自分の意識が表にある事に複雑な気分になる。
眼鏡はサイドテーブルに置き去りにし、リビングに向かう。

そこに、小さな寝息を立てている訪問者がいることに気付き、砂月は目を見開いた。

机の上には楽譜や音源データなどが散らばっていて、書類も書き込みだらけになっている。
自室に戻らず合鍵でここにやってきて、そして寝てしまったらしい。

「馬鹿か、お前は…」

呟いた声は掠れていて、幸い眠る彼女には届かなかったようだ。
とにもかくにも、ベッドまで運ぶため春歌を抱え上げる。柔らかで心地よい重みが、砂月の腕に、体にもたらされた。

砂月のライブの準備だけでなく自分の仕事もこなし、毎日激務なのだろう。寝入っている彼女は、これだけ動かしてもまったく起きる気配がない。安心しきった寝顔に、自然と満たされた。

那月は、春歌に心からの愛情を注いでいる。それは、誰の目にも明らかで、それが段々と彼に強さを備えさせていったのだろう。
それでも那月が時々不安定になるのは、砂月に対する優しさ故だ。
砂月もまた、春歌を求めて止まないから。
元は同じなのだから、同じ女性に惹かれたとて不思議はないのかもしれない。しかし、那月と砂月の春歌への想いは重ならない。
だから、不安定になる。

「ん…」

時折漏れる声に反応しそうになり、無意識に彼女の頬へ伸ばしかけていた手を止め、宙で握りしめる。
春歌と共に居ても、砂月の中には常に那月への罪悪感がある。
春歌にふさわしいのは那月。
そして、春歌が砂月を受け入れている素振りを見せるのも那月の為だ。

願ってはいけない。
彼女が欲しいなどと。
彼女は那月の隣にいるべきひとであり、那月も彼女の隣にいるべきなのだ。

そう思えば思うほど、笑顔を向けてくれる春歌が眩しくて、愛しくて、恋しくて、寂しくて。
結局いつも、傷付けて泣かせてしまうのだ。

「…さ…つき…く…」
「!」

春歌の、きつく閉じられた瞼から溢れる涙。

夢の中でも泣かせている。そんな自分が嫌になる。
それでも、彼女との永遠を願いたくなる自分がもっと嫌になる。

「…春歌…」

魘されて、何かにすがろうと宙をさ迷う小さな手。恐る恐るそれを引き寄せ、砂月は柔らかな掌に自身の唇を押し付ける。

永遠など願ってはいけない。
消える為に生まれてきた砂月には、最初から永遠など存在しないのだから。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ