色々夢
□ハルカナルユメ
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「ほら、出来たぞ」
「はい!」
黒崎が一品目を完成させ、ちょうど取りに来た春歌に渡す。
二人は以前もここで働いていた事がある。その時もこのような状態だったのだという事は容易に想像がついた。
ペナルティのはずだが、楽しそうなのが腹立たしい。
俺が睨んでいたのが分かったのか、黒崎が再び俺の方へ視線を向けた。
「何だよ」
「…貴様、アイドルなど辞めて転職したらどうだ」
「あ? んだと?」
話しながらも、俺たちは次々と注文された料理を仕上げていく。それを取りに来た寿が余計な口を挟んできた。
「二人とも手際良いね〜。いつかアイドル引退したらさ、皆でレストランやるとかどう?」
「一人でやれ」
黒崎と声が揃ってしまった。
む、と睨み合う間に、寿が「ほんと扱い酷いんだから」と嘘泣きしながら皿を運んでいく。
黒崎が面倒そうにもう一度俺を睨んだ後、オムライスを皿に滑り込ませた。
「……厨房は私語厳禁だ」
「…そうであったな」
これ以上話したくないので、俺もその言葉に頷く。
それからは無言でひたすら注文を受け続け、気づけば営業時間を過ぎていた。
「よっし、終わろー!」
最後の客が帰り、寿が笑顔で飛び込んでくる。その顔の前に、黒崎が皿を突き出した。
「うわ、何、何!?」
「メシだ。運べ」
「おお!! ランランやっさしい〜♪」
賄い料理というやつか。黒崎が渋々俺にも渡してきた。
…確かに、今日はまだ何も食していなかったな。仕方がない。受け取ってやろう。
「ランマル、僕は要らない。新幹線の時間があるから、もう帰るね」
「先輩、お忙しいのにすみませんでした…っ」
エプロンを外しながら美風が言い、それを聞いた春歌が申し訳なさそうに頭を下げた。
無表情だった美風が、その一言で笑顔になる。
「春歌。こういう時は笑ってありがとう、だよ。ボクはそれで十分だから」
「でも…」
「でもは無し」
「あ…ありがとうございました」
困ったような微笑みだが、威力は十分にあった。美風が満足した様子で帰っていく。
それを見送り、俺と寿、黒崎と春歌でゆったりと夕食を開始した。
あの黒崎が作ったというのに、腹が減っているせいか美味い。そうだな、腹が減っているせいだな。だから俺は感想など言わぬぞ。
「ランランの手料理なんて初めてだよ〜。すごい美味しい!なんか感激しちゃう!」
「…そうかよ」
「…フン」
食べている間にも、春歌が皆の飲み物を運んだりと甲斐甲斐しく働いている。
見兼ねたのか黒崎が顔をしかめて言った。
「お前も落ち着いて食え。客じゃねえし、飲み物くらい自分で注げるだろ」
「あ、ですが…」
「ねえねえ後輩ちゃん、さっき冷蔵庫にケーキが入ってたけど、あれは余り?」
なん…だと…!?
「あ、はい。よろしけば召し上がりませんか?」
「食べる食べる!」
「…分かった。取り分けは俺がやろう」
俺が立ち上がると、春歌がびっくりして見上げてきた。
俺は今、そんなにおかしなことを言ったか?
「さすがミューちゃん。でもミューちゃん一人に任せると全部持ってかれそうだから僕ちんも行く〜!」
冷蔵庫の扉を開けると、数種類のケーキがいくつか残っていた。
ほう…チーズケーキ、チョコレートケーキ、ベリータルト、あとこれは紅茶のシフォンケーキか…どれもシンプルだがそれだけに味が重要だ。この店に限ってはどれも素晴らしいものであると、俺は既に知っているが。
俺がケーキを吟味している後ろで、寿はフロアの方を観察している。
「やっぱりさ、何だかんだでお似合いだよね、あの二人」
見れば、黒崎の正面に座った春歌が今日一番の笑みで賄い料理を頬張っている。その向かいの黒崎も、偽物かと思いたくなる程穏やかに笑っていた。
「ふん…早乙女ももっとペナルティになる事をさせれば良いものを」
「ほんとだよねー。あ、僕このチョコレートケーキがいい」
「む…貴様っ」
「もう触っちゃったもーん!」
ケーキを持って寿が逃走する。
こら走んな、と黒崎の声がして、フロアが騒がしくなった。
ちっ。あやつが先に行ってしまったと言うことは、春歌はともかく黒崎の分まで俺が用意せねばならぬではないか。
適当にケーキを選んで盛り付けると、俺もフロアに向かう事にした。
20140927
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無駄に超長い
蘭春ベースの春ちゃん総受けみたいな感じでわいわいしたかったんですー。
カミュ盛り付けのケーキは、練乳仕込みの生クリーム蜂蜜がけになっていると思う。