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□新年好!
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「新年明けましておめでとうございます」

新年を迎え、武田の総大将となった夫の元には大勢の武将がひっきりなしに訪れている。

初めは隣で一緒に挨拶していたものの、夜は宴会だからと既に昨晩から忙しくしている佐助たちを手伝わない訳にもいかず、総大将の妻としてどういう行動をとるべきか少々思い悩んでいた時だった。

「おや、奥方様」

どこか飄々として、それでいて安心感を与えてしまう深い声。
夫ともよく似ているそれが、気配と共に急にしたものだから驚いた。

「…あ! 昌幸さま…あ、えっと、お、お義父様、幸村様も。ご休憩ですか?」
「そんなところだ」

声をかけてきたのは、義理の父となった、昌幸であった。横には幸村が付き添っていて、どうやら挨拶は一時中断になったようだ。
と言うより、昌幸が無理やり幸村を連れ出しただけか。

慌てて呼び名を直す義娘に、彼は朗らかな笑みを浮かべた。

「いつまでも愛らしいのう、わが義娘は。いや、義娘にしておくなど勿体無いなやはり」
「父上…どういう意味でしょうか」

不機嫌に指摘する幸村がいつも以上に子どもっぽく見えて、思わずくすりと笑ってしまう。
めざとく気付いた昌幸がしたり顔で腕を組んだ。

「愛らしいのだから仕方あるまいて。いや、こんな美しい妻を貰ってわが息子はまことに果報者よ」
「な、う、えぇ、と…」

言っている事自体は強く否定する程のことでもないが、だからといってどう返せばいいのか。とりあえず息子の妻を毎回褒めちぎって隙あらば口説くのは止めてほしい。
幸村の心情はそんなところだった。

そんな息子の事など熟知している昌幸である。
彼はさらに幸村を追い詰める事にしたらしい。

「ああ、早く孫の顔が見てみたいのう。きっと玉のように美しい赤子に違いないぞ」
「……っ」

まずい。話の流れが非常にまずい。
なんとか止めた方が夫の為だ。しかし何と言って割って入ればいいのだろう。

「して、幸村よ。実際のところどうなのだ、子のほうは」
「―――――っ!」

まるで火鉢にあたっているような熱が辺りに充満して、手遅れになった事を悟る。

「うおおおおおおおお!!」

どかんがしゃんと大量の破壊音を生み出しながら夫が走り去っていく。

「また逃げるか。我が子ながら心配だのう…」
「お義父様…」
「いや、分かっておる。お主たちの歩む速度というのがあるしな。ただな、孫をこの手に抱くのを楽しみにしているのも事実なのだ」
「それは…」
「責めてはおらんから安心せい。しかしあやつがあの通りなのでな、父としてちょいと背を押したくなった、それだけだ」

からかうと面白いしな、と付け足す昌幸は相も変わらず若々しく、幸村とはまた違う魅力に溢れている。

「さて、新年早々派手に壊したからな。佐助に睨まれる前に退散するとしよう」
「え、先程いらしたばかりですのに…」
「いや、隠居は隠居らしく大人しくしておるよ」
「そんな、今日くらい泊まって行ってくださらないのですか?」

足早に門へ向かう昌幸。慌てて追いかけると、彼はふと目元を和らげた。
そんな表情をしていると、本当によく似た親子だと思い知らされる。

「我が子の妻で、今お主は幸せか?」

その答えは、自然と浮かんできた笑みに託すことにした。





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20130102
今年も宜しくお願い申し上げます
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