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□愛し君へ
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「骸、お前いまから家庭教師やってこい」
いきなり黒衣の赤ん坊にそう言われたものだから、僕は当然「嫌だ」と断った。
すると、当然のことながら、ズガーーンというこの平和な町には似合わない物騒な音が響き、僕の横の壁に無残な痕を残した。
「…、俺の言うことが聞けねぇってんなら…どうなるかわかってるんだろうな?」
そういってもう一度銃を構える仕草をし始めた赤ん坊を見て僕は仕方ないと言った風に両手を上にあげ「わかりました」と了承した。

つまりは何を言いたいかというと、最初、僕はこの仕事には乗り気ではなかった。
そうあくまでも『最初』は…。






愛し君へ








「つっなよしくーん!!!」
僕は玄関のドアを開けてそれからまず第一声にはこう叫んでいた。するとドタバタと階段を不規則な音で駆け下りてくる音が聞こえる。
(あぁ…この不規則な足音でも愛しく思える…!)
僕は目をつむってこの愛しき人の出す音に酔いしれた。
「い、いらっしゃいっ!あつかったでしょ?クーラー聞いてるからどうぞ入って!骸先生。」
(クッハー!聞きましたか、今の!骸『先生』って呼びましたよこの子!もうほんとにかわいすぎるんですけど!)
僕はあまりの可愛さに動悸、息切れが止まらなくなり思わず玄関の壁にハァと寄りかかった。
「骸、先生?大丈夫?」
急に赤くなって壁に寄りかかる僕をみて心配そうに見つめる綱吉君。あぁだめです。そんな風に上目づかいで見たら!もっと興奮してしまいます!

「熱中症とかになってない?とにかく早く部屋入って!」
そういって綱吉君は僕の手をぐっと引っ張ってそのまま階段を上ろうとする。その掌の温もりを肌で感じながら僕は彼の後を追っていった。
(あったかい…)
こんな暑い日に誰かに肌を触られるなんて今までの僕だったらきっと嫌だったろうけど、今はこの肌の温もりがとても愛しくて少し湿るくらいのしっとりした質感がたまらなくうれしかった。

「先生、とにかく座って。俺、なんか飲み物持ってくるから!」
そういうとまたバタバタと彼は階段を降りていき、僕は彼の部屋に一人取り残された。
相変わらず雑然としていたが、今日は家庭教師が来るということで必死に片づけたのだろう、そのあとがあちらこちらにうかがえる。漫画本は一気に本棚につっこんだようで、巻数がそろっていないし、あまつさえ、上と下を逆につっ込んである。
洗濯物も急いで突っ込んだのか若干箪笥からはみ出していて、それが綱吉君のパンツだと思うと僕は妙に緊張した。
(…ちょっと、見るだけなら…)
僕はそう思って、やましい気持ちを頑張っておさえながらもそろそろと箪笥の引出しをあけた。
「クハッ!」
(な、なんてかわいらしい…!)
僕はおもわず手にとって綱吉君のパンツを眺める。
彼のいつも履いているパンツだと思うとやけに興奮してきて僕は下半身に熱を持つのが分かった。
(ちょっと待って下さい!僕の息子よ!)
すこし前かがみになりながら僕は自分の醜い主張を抑え込む。まぁなんとかなりそうな範囲だったので、その体制でしばらくいるとなんとかおさまった。
(はぁ…。にしても綱吉くんのパンツは強烈な力を持ってますね…。…一枚くらいなら、いただいても大丈夫ですかね?)
僕はまた妙な心が生まれてきて手に取った一枚の綱吉君のパンツをこっそりと鞄の中に入れ込んだ。
そしてちょうど入れ終わった後にガチャリと綱吉くんが入ってきた。

「お待たせ〜。オレンジジュース入れてきたよ〜。って、先生何やってんの?」
「…いや、ちょっと体操を…。」
「…ふぅん。まあいいや。元気そうだし。」
そういうと綱吉君はにっこり笑って、おぼんを机の上においた。


(あぁ…危なかった。もう少しでパンツ盗んだのばれるとこでした。)
僕は綱吉くんにバレないようこっそりと息をつき、そのまま腰かけた。







「で、今日はどこを見てもらいたいんですか?」
僕が今日の勉強の範囲を聞いてみると綱吉君は少し憂鬱そうな顔をしてから「はい」と言って問題集を渡した。
「コレ、のどこをやるんですか?」
僕はその割とぶあつい問題集をぱらぱらとめくりながらそう言うと小さい声で彼はこう言う。
「ぜ、全部…。」
「は?全部、ですか?」
「…ぅん…。全部」
「…正気ですか?貴方、自分の力量はご存知ですか?」
僕はぱたんと問題集を閉じそれを机の上に置くと綱吉君は「だって!」と言い訳を始めた。
「だって!リボーンが今日中に出来ないっていったらお仕置きひどくするぞ!って言ったんだもん!」
綱吉くんは目にうっすら涙を浮かべてそう叫ぶ。ちなみにリボーンというのは彼の従弟だそうで、僕に彼の家庭教師を頼んだ黒衣の赤ん坊だ。
なんでも、あまりのダメっぷりに耐えかねたリボーンが友人(本当にそうなのか?)である僕に家庭教師を頼むことで綱吉くんのダメダメを改善させようとしたのだ。
あの時はこんな仕事やってられるか!と思っていたが今となっては引き受けて本当によかったと思っている。

「…まぁ、一つずつ片付けますよ。」
「…はーい。」
そう言って手つかずの問題集を開き、僕らは勉強を開始した。






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