宝物を掲載
□誕生日小説
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***
「………………」
清雅は悩んでいた。
今までにないと言っていい程に悩んでいた。
机の上に置かれている小さな箱をこれでもかと言わんばかりに見つめた。
小さな箱が喋れたのなら、「そんなに見ないでっ!」と言いたくなる程に。
その様子にさすがのタンタンも秀麗も怖くなった。
いつもは余裕の笑みを浮かべる男が、苦い顔をもっと苦い顔をしているのだから。
清雅を悩ますその原因の人物が誰であるかも、すぐに検討がついた。
「せーが君?大丈夫か?」
「………」
「そんなに見つめた所で、その箱が柚凜さんの所になんか行かないわよ」
「……………………。紅秀麗」
「な、なによ」
「どう、渡せばいいんだ?」
「はぁ?普通に渡せばいいじゃない」
「それが出来れば、こんなに悩んだりしない!」
声を荒げた清雅の顔には焦りと不安、色んな感情が入り混じっていた。
その顔を見た二人は笑いそうになったのを、必死に堪えた。
「はぁ…。帰り際に渡せばいいじゃない」
「なんて言えばいいんだ」
「それぐらい自分で考えなさいよ」
秀麗はそう言うなり、タンタンの腕を引っ張り、室を出て行った。
頼みの綱の二人が居なくなった清雅はいよいよ頭を抱えた。
「どうすればっ……」
清雅の問いに答えてくれる者など室には居ず、ただ虚しく木霊しただけだった。
***
「柚凜」
「清雅さん、どうしたんですか?」
「あっ、いや…」
「ごめんなさい。
長官から急ぎの仕事を任せられて、一緒に帰れそうにないです」
「誕生日、なのにか?」
「へっ?」
「あっ……」
しまったと言わんばかりに清雅は顔を歪めた。
こんな風に切り出すつもりじゃなかった清雅は居心地が悪くなった。
一方の柚凜はコテンと首を傾げた。
誕生日…、と復唱した柚凜は思い出した様に顔を上げた。
「確かに今日は誕生日でした」
「忘れていたのか?」
「忘れていた訳じゃないですけど、仕事の方が忙しかったから…」
「あー、その、なんだ……これ……」
「なんですか?」
清雅から手渡された小さな箱を柚凜はマジマジと見つめた。
箱を開ければ、耳環が二つ。
飾りは小ぶりながらも、綺麗な装飾が施されていた。
「うわぁ、とても綺麗です」
「仕事中は装飾品はあまり付けれないだろ?
だが、耳環ぐらいなら付けれるだろ?」
「今付けても良いですか?」
「あぁ」
自分の耳にしていた耳環を外し、清雅から貰った耳環を付けた。
シャラと飾りが一つ音を立てた。
鏡がない室の為、今の自分がどうなのか分からない柚凜は清雅を見つめた。
「なんだ」
「似合っていますか?」
「あ?あぁ……」
似合っている、そう耳元に囁き、一つ口付けを落とした。
あまりにも突然の清雅の行為に柚凜は顔を赤くし、固まる事しか出来なかった。
「あぁ、それから。
誕生日おめでとう」
「あ、ありがとう、ございます…」
「あと、どれぐらいで終わりそうだ?」
「ほんの少しです」
「だったら、待っておく。早くしろ」
「でもっ……」
「こんな時くらい、一緒に居たいだろ」
ふいっと顔を反らした清雅の頬は薄紅色に色付いていた。
その言葉が嬉しくて、柚凜はその頬にお礼の意を込めた口付けをし、仕事を始めた。
柚凜からの口付けに驚いた清雅は驚き、頬に手を当てた。。
いつも余裕の表情を浮かべる清雅には珍しく驚いた行動に柚凜はクスクス笑った。
その後、清雅からの口付けの嵐が待っているとは露知らず……。
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