恋葉歌
□壱
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壱*「始まりの鐘がなる」
***
「白雪、いつでも完璧なレディでありなさい」
「……はい、お母様」
亡き母の声が今も鳴り響く―――
***
桜が満開の春初旬。
桜並木を歩く一人の少女にすれ違う人々は男女関係なく振り返る。
今時珍しい絶世の美少女。
大きな二重の瞳に少しウェーブの掛かった漆黒の長い髪。
紺色のブレザーに灰色のチェックスカート。
胸元にはきちんと結ばれたネクタイ。
桜の花びら一枚一枚が彼女を祝福するかのように、ひらり―――またひらりと舞う。
そして、「若宮学園」と書かれた門の前で彼女は立ち止まり、少しだけ悲しそうに笑う。
「…今日から通うのはここですわね」
笑みを収め、凛とした表情で彼女は期待と不安を胸に門をくぐった―――
***
「えっと…私(わたくし)のクラスは…」
掲示板に張り出されたクラス分けに自分の名前を探していると、不意に後から名を呼ばれた。
「白雪――!」
誰かと振り返った瞬間、白雪は抱きしめられていた。
「なっ…」
「白雪、若宮学園にようこそ!」
驚いて顔を上げると、そこにはよく見知った顔があった。
「……平ちゃん、痛いわ」
仔犬のように瞳をキラキラさせて白雪に抱き付いた男―――藤堂平助は、「アハハ、ごめん。つい…」と言って白雪を解放する。
「いやぁ、白雪と同じ高校だと思うと嬉しくてさぁ」
満面の笑顔でそう言ってくる平助に白雪は苦笑した。
「えぇ、私も楽しみにしていたわよ」
ふふふと笑う白雪に、周りにいた者は皆、見惚れていた。
「さぁ、案内するよ。もうクラスは調べてあるから」
そう言って差し出された手を白雪は当然のように手に取った。
***
入学式も無事に済み、ホームルームも終わったので、白雪は帰り支度をしていた。
すると、クラスに女子――確か池田さんと言った気がしたが、初日の為、あまり覚えていない。
その子が顔を少し赤らめて白雪に話し掛けてきた。
「あっ…あのっ竜宮さん!」
「何かしら?」
「外で…先輩方が呼んでます」
そう言われてパッと教室の出入口を見ると、そこには平助とその後からあと二人程、こちらを覗き込んでいた。
「そう…ありがとう」
彼女に礼を言い、鞄を持ち平助の元へ向かう。
「白雪!もう終わったよね?良ければこの後、俺たちで学校を案内するよ」
「えぇ、お願いするわ」
平助の申し出を快諾した白雪と三人は、取り敢えず中庭に移動する事にした。
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