リクエスト

□ac/アルタイル
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ガタガタと震える手、足、体。凍てつく寒さに怯えるように震える。アルタイルは、初々しくも恭しい暗殺を立派に遂げたばかりの雛を見た。

いま なにを ころしたの

震えた唇が空気を紡ぐ。確認であるのか。または、殺したものは何であったか。
どちらを問いたいのか、アルタイルには察しが付かなかった。どちらを聞きたいのか、どちらともなのか。
青白い唇は震えていて、血の気もない。寒くないはずが震えていた。聞き取ることが困難である。アルタイルは辛うじてそう聞き取ったのだ。

「お前は何を殺したと思っている」

ナマエは震えている。
打ち据えられた子犬のようだ。
毛を生やして鼻を濡らしてしまえばまさにそれである。
アルタイルは詰るように強い口調で質す。苛立ちを隠そうともしない。

「アサシンとして立ち始めた者が、迷うべきではない。愚かになるな―――」

―――。


アルタイルは口を閉じて急遽、説教を終了させた。思考を改める。

思いの外、重症、らしい。アルタイルは眉間に力を入れた。憐憫などといった情が、ないわけではない。ただあまりに情けなく震えているのだ。たった今、殺したばかりのソレを見ないように。拒絶するように。否定するように。



「ナマエ」
「、あるたいる」
「…気をしっかりともて。揺れるんじゃない。受け入れろ、―――死は何者にも平等だと」



罵りたい、自覚を持てと。しかし言うべきことではない。言いたいことは飲み込んで。アルタイルはナマエの目に強く語りかける。呑み込まれるな。受け入れろ、と。
それを念じてナマエに伝える。もう十分、柄でもないことをした。後は察せよ。アルタイルはひたと見据える。



「なんで、なん、わたしなの」
「お前が一番奴の近くにいたんだ」
「いやだきもちわるい!」
「俺とて急いだ。だが、現実はどうだ?すべきだったのはナマエ、お前なんだ」
「えー!やだよばっちーもん、これほら気持ちわるいし!」



悲痛な叫びが辺りを走る。そこでアルタイルはようやく、張り詰めた空気をほぐすように、ため息をついた。やってられるか。最初こそ優しく声を掛けたのすら馬鹿らしい。
後ろの物陰から様子を窺っている弟子らに手で合図する。上へ下へと幾度か振る。いいぞ、下がれ。そう合図する。


「虫が嫌いだからといっても放心するんじゃない、無駄に周りを掻き乱すな」


足元に広がるのは羽虫。黒光りするソイツは、それこそ、女の苦手とするものだそうだ。食事を用意していたところを襲った、ソイツを刈り取るべく、駆り出されたのがナマエであった。
アルタイルは馬鹿馬鹿しくなって肩肘を落とす。女がすべからく嫌うものは、勿論ナマエも不得手であった。それを頼まれ断れず、泣く泣く我慢し仕留めたというから、労ってやっているのだがらちが明かない。



「混乱してブレードで仕留めたのがだめだった。これ汚たねぇ」
「………」



人の心を他人は知らず、気も知るはずはない。ナマエがアルタイルのローブで拭き取るから、
アルタイルは、もう、宥めるのは止めることにした。本気で。むしろ宥めようとしたのが馬鹿であった。まだ拭いている彼女に拳骨をあげることで締めとしよう―――――アルタイルは浮かぶ青筋の囁くまま怒りを振り下ろした。




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