リクエスト

□MH/クルペッコ
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綺麗な石ころが、鮮やかな羽根が、ステップを刻む足音が、―――方々に散らかる頃にクルペッコは大きく息を切らしていた。
スタミナ切れ。
疲労である。

肩のあたりを大きく揺らして息をする。へとへとの様子である。
嘴はまっすぐ、地面に伸びる。いつもはそこから鳴り響く音も、今はない。

ゼエハアと、酸素が大きく吸われては吐き出される。
調子外れな音が所々で合いの手を打つ。呼吸の勢いでときたま、情けない音が発声器官から漏れるのだ。



「なんか…息がほんとえらそうだけどさ、大丈夫?」



背中を撫でてやる。大きく揺れる身体に合わせて、ナマエの手も上下する。
首から尾羽のあたりまで。
何度か往復してやると、クルペッコは膝を折った。糸が切れたような勢いである。


「ちょっと。本当に大丈夫なの…?」


嘴も擦ってやる。
クルペッコは首だけ持ち上げた。
発声器官を共にもつそこは、様々な音を出すために、疲れやすいのだ。いわばツボである。

触りやすいように首をあげたあたり、どうやら疲れていたらしい。
うっとりとした様子で嘴を差し出してくるのだ。ナマエはそうするたびに擦ってやった。
腕がダルくなってくるが、まあ、
ご愛嬌というやつだ。


なにせずっとアピールしてくれていたのだから。
今までの求愛で最長記録だろう。まず間違いない。
それだけ続けざまに行ったのだ。彼の集大成といえるほど。
まさに手を変え品を変え―――クルペッコは気を引こうと懸命だった。


ナマエは嘴から手を離した。


「とりあえず、マッサージは終わり」


離れる手をクルペッコの視線が追う。
疲れから、目蓋が半ばまで下りている。とろんとした目付きであった。

そんな半目がおそるおそると見上げてくる。疲れてへたったのも相俟って情けなさが滲み出てしまう。
ナマエは噴き出してしまった。しかし反応はない。それすら余裕がないのだろう。
ただただ情けない。
そんな顔で、おそるおそる、こちらを伺う。判定やいかに。そんな所だろう、尋ねることは。


「あのさ」


ナマエは手を伸ばす。嘴が跳ねて仰け反った。しかしそれでも伸ばしたままにしてやると、
クルペッコは申し訳なさそうなまま、そっと嘴で触れた。

ちらり、と目玉がこちらを伺うのでナマエはクルペッコに、やっぱり笑った。
やはりというか、なんというか。抜けているんだなあとナマエはしみじみ思う。変なところ真面目で変なところ抜けてるなあと。
思われているのも露知らず、クルペッコはナマエをひたすら見ている。

答えなぞ示し続けているのだ。



「あのさ、何度も何度も、おまえから去らないで、
ずっと見てきているんだから察してくださいな」



沈黙。
しばし、間。


そして視界に広げられた鮮やかな羽は、どうやら察してくれたらしい。
 

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