リクエスト
□MH/イャンクック
1ページ/1ページ
「おりゃああ!!」
と、掛け声一つに対して火球が一つ。
ゴウと一直線に飛ぶそれは、そのまま線上のナマエにぶつかり燃え移る。
衝撃と痛みをこらえ体勢を立て直す。
しかし立て直せない。がくり、と片膝をついた。体力が限界を訴えていた。
それからはそれ以上の追撃もない。
訓練は終わりのようだ。
ナマエは顔をあげた。
「先生どうだった!?」
まず尋ねるのはそれである。先生と呼ばれるイャンクックはきょろりと首をかしげる。あとは無反応―――それだけで、言いたいことは伝わってくる。痛いほどだ。
要は及第点にまだ遠い、ということである。
ばたりと仰向けに倒れたナマエに、嘴を軽く差し向ける。
コツンコツンと軽妙にあたるそれは、叱咤しているような。激励しているような。
ほらもう少しがんばりなさいと催促するリズムで、まさしく、"先生"の愛称で親しまれている、それその由来の証である。
「あともうちょっとー」
悪びれもせずに片手をあげられ、イャンクックは飛び上がった。短く鳴き声をあげる。咎めるように。
できの悪い生徒を、次の課題へ促すような声色である。
先生と親しまれる彼は闘技場で孵り、育てられ、成長した。
彼の仕事は、新たにハンターとなる人間に、飛竜との立ち回りを叩き込むことである。故に先生。
それなりに戦闘演習も積んできた。
そんなイャンクックだからこそ分かる。
数多の新人を相手にした彼だからこそ、わかる。
ナマエはモンスターとの立ち回りが下手である。―――それは致命的なほどで。
見下ろすイャンクックに彼女はへらりと笑う。
「まだもうちょっと。休憩いいですかあ」
べしょりと寝転んだままである。見下ろすイャンクックの心情など気にしていない。
こつんこつんと嘴で非難する。それを笑って流してしまう。動きそうもない。
甘すぎる。
本番であれば命は無くなっていただろう。ダメージを食らう。なら、次は体勢の立て直しである。
そうしないナマエは論外で、門外で、
要はハンターには圧倒的に向いていない。
攻撃ひとつとっても、イャンクックの本能を昂らすものは何一つない。生命を脅かす一撃はついぞない。
強い警戒も恐怖も抱かない、から、至って気安く接せれるのかもしれない。
ナマエは尚も動かない。のほほん、と闘技場の空を見ている。
「英気を養うからあー、そしたらまた訓練するけど。
でも、先生に攻撃したら、先生が痛いじゃない」
ねえ先生とへらへら笑う彼女に、くるくるりと首をかしげ―――ついに急かすことをやめる。イャンクックはナマエの暢気に釣られて空を仰いだ。
雰囲気を助長するように、鳥の妙に間抜けた声が澄みわたる。
あ、鳥だ。そんな間抜けたことを呟やくも、イャンクックは咎めることはしなかった。だってほら、手のかかる子ほどなんとやら。
叱咤役は闘技場の教官に任せることにしよう。
イャンクックは訓練終了の銅鑼が響きわたるまで、足元のナマエを叩き起こすことはしなかった。
</>