リクエスト

□MH/イャンクック
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「おりゃああ!!」


と、掛け声一つに対して火球が一つ。
ゴウと一直線に飛ぶそれは、そのまま線上のナマエにぶつかり燃え移る。

衝撃と痛みをこらえ体勢を立て直す。
しかし立て直せない。がくり、と片膝をついた。体力が限界を訴えていた。
それからはそれ以上の追撃もない。
訓練は終わりのようだ。
ナマエは顔をあげた。


「先生どうだった!?」


まず尋ねるのはそれである。先生と呼ばれるイャンクックはきょろりと首をかしげる。あとは無反応―――それだけで、言いたいことは伝わってくる。痛いほどだ。

要は及第点にまだ遠い、ということである。

ばたりと仰向けに倒れたナマエに、嘴を軽く差し向ける。
コツンコツンと軽妙にあたるそれは、叱咤しているような。激励しているような。
ほらもう少しがんばりなさいと催促するリズムで、まさしく、"先生"の愛称で親しまれている、それその由来の証である。



「あともうちょっとー」



悪びれもせずに片手をあげられ、イャンクックは飛び上がった。短く鳴き声をあげる。咎めるように。
できの悪い生徒を、次の課題へ促すような声色である。


先生と親しまれる彼は闘技場で孵り、育てられ、成長した。
彼の仕事は、新たにハンターとなる人間に、飛竜との立ち回りを叩き込むことである。故に先生。

それなりに戦闘演習も積んできた。

そんなイャンクックだからこそ分かる。


数多の新人を相手にした彼だからこそ、わかる。
ナマエはモンスターとの立ち回りが下手である。―――それは致命的なほどで。
見下ろすイャンクックに彼女はへらりと笑う。


「まだもうちょっと。休憩いいですかあ」


べしょりと寝転んだままである。見下ろすイャンクックの心情など気にしていない。
こつんこつんと嘴で非難する。それを笑って流してしまう。動きそうもない。


甘すぎる。


本番であれば命は無くなっていただろう。ダメージを食らう。なら、次は体勢の立て直しである。

そうしないナマエは論外で、門外で、
要はハンターには圧倒的に向いていない。
攻撃ひとつとっても、イャンクックの本能を昂らすものは何一つない。生命を脅かす一撃はついぞない。


強い警戒も恐怖も抱かない、から、至って気安く接せれるのかもしれない。
ナマエは尚も動かない。のほほん、と闘技場の空を見ている。



「英気を養うからあー、そしたらまた訓練するけど。
でも、先生に攻撃したら、先生が痛いじゃない」



ねえ先生とへらへら笑う彼女に、くるくるりと首をかしげ―――ついに急かすことをやめる。イャンクックはナマエの暢気に釣られて空を仰いだ。

雰囲気を助長するように、鳥の妙に間抜けた声が澄みわたる。
あ、鳥だ。そんな間抜けたことを呟やくも、イャンクックは咎めることはしなかった。だってほら、手のかかる子ほどなんとやら。

叱咤役は闘技場の教官に任せることにしよう。
イャンクックは訓練終了の銅鑼が響きわたるまで、足元のナマエを叩き起こすことはしなかった。



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