リクエスト

□MH/ベリオロス
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先日、村を襲ったバギィたちを退けた際の怪我が痛む。ぴりぴりと。
体組織が悲鳴をあげるのを、無理矢理に黙らせて村の外れへと足を運ぶ。

資源の乏しい凍土での生存は厳しい。
あらゆる生物のテリトリーがひしめく土地で、防衛を怠るのはつまり、衰退である。
リーダーが替わったバギィの群れは、新進気鋭と村を荒らしているのだ。ナマエが主に相手取るのはベリオロスである。しかし今はバギィらの撃退が目下の標題であった。


「やっぱり。いた」


そしてベリオロスも。
バギィらとベリオロス、
2種の生物が村の近くを陣取っている。

ナマエは武器に手を伸ばす。舌打ちをして、双剣を構える。怪我を負ったときに限って。忌々しい、と。
乱入者に気づいたバギィが警戒の声をあげ、群れへと伝える。声から声へ。警戒はつながり、ずらり、と囲まれた。


こうなればベリオロスが襲いくるのも時間の問題である。
たった1度の瞬きか。はたまた2度目か。
目を閉じて開けばすぐに、すぐそこに、彼は牙を突き立てんと跳躍をしているだろう。警戒を怠ってはいけない。
否。怠れないのだ。ナマエはあらゆる角度に注意を払った。


どこから来られてもおかしくなく、事実。ベリオロスは背後に回り込み、みごと跳躍してみせた。バギィらの群れへと、強靭な尻尾が叩きつけられる。


「―――――えっ?」


もちろん悲鳴をあげたのもバギィらである。
全く以て痛くないのだから、ナマエがあげる筈もない。

急な事態に思考が固まる。体勢を直したベリオロスの懐が影となって降り注ぐ。
慌てて刃を向けるがベリオロスは無関心であった。むしろ動いたことを非難するように牙を剥き、厳しい視線と尻尾とに脳天を小突かれるが、それだけだ。
彼はブレスを叩きつけると、四肢を使い、ナマエを無視して、群れの中へと飛び込んだ。

敵意は、完全にバギィらへと向かっている。小突かれた其処も痛くない。
呆然と固まって、双剣を持つ腕がたらんと垂れる。



「………叱られた……気分だ……」



まさにそれである。

小突いてきた尻尾は、まるで拳骨。ナマエにとってはその事実が痛みよりも衝撃であった。

眼前に広がる光景は、ベリオロスによる蹂躙である。
逃げ惑うバギィらをナマエが追い討つ必要はない。それほど圧倒的に、彼は奮い立ち、動き、蹂躙していた。いっそ憐れ。それくらい、バギィらは鳴いていた。


バギィの姿がなくなると、ベリオロスはその場に留まりナマエへと近づいた。ブレスを吐く前と同じように。懐へとしまいこむ。
すっぽり影が被さり、体温が皮膚を融かす。悲鳴をあげていた体は熱で少し、泣き止んだ。

ナマエは目を瞑る。

牙が、今度こそ、肉を裂く。

そう思って目を瞑る。が、ひとつも無い。牙は突き刺さらない。
代わりにあちこちを、柔らかい吐息が触ってくるのだ。ナマエは目を開けてみた。


「う、わっ!?」


彼の、青い目が真剣にこちらを見ていた。

鼻先で撫でるように。体のあちこちを探っている。腕や首や腹や足。何度も嗅いで確かめている。特に足である。
怪我して滲んだ血でも臭うのだろう。鼻先は何度もそこを行き来する。



「あの……やめてください、恥ずかしいんで…」



あんまりにも真剣で、深刻に、嗅いでいる。
見ているこちらが居たたまれない。申し訳ないというか恥ずかしいというか。
ナマエが身を引こうとすれば、察知したベリオロスの目付きが厳しくなる。ウロチョロするなとばかりに叱るのだ。ナマエはまたもや固まらねばならなかった。

そして足を痛がっていると気付いたベリオロスが、難しい顔をして、
嗅いで、舐めるのも堪えねばならなかった。

ベリオロスが、無事を確信するまでは我慢せねばいけないらしい。真剣に患部を睨む彼の真っ赤な舌が伸ばされる。ナマエは横を向いた。顔から火が出そうだ。


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