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□テッシードが華麗に着地
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じいっと見おろす三白眼、鉄の表皮の隙間から見える緑色。テッシードは天井にくっついて、眼下の情景を見守っていた。

振りかぶられる拳、受け止める体。
小さな子どもたちが3人と1人、
合わせて4人をテッシードはここ数週間ずっと眺めていた。
蹲る1人を他が殴り続ける。時たま鋭く言葉が発せられ、洞窟内に響く。テッシードは木霊を聞きながら、天井に張り付いて下の光景を見ていた。


ばーか。ぶーす。きもい。
3人が3人、同じ言葉ばかりを繰り返す。それも数週間続くから、覚えてしまった。意味は分からない。
言われた女の子は泣いている。きっとひどいことばなのだろう。テッシードは黙々と見ながら予測をつけた。

この数週間でだいぶ人間のことには詳しくなった。
野生なのに。
それくらい長くテッシードは彼らの光景を見続けていた。
だから女の子が仲間はずれにされているのに、今までの知識を総合すれば、長く考えたけれど、気づくのは当然である。

あまり良い気分のものではない。
さてどうしたものか。
テッシードが見続けながら思案を始めた時である。
女の子がパッと。
顔をあげた。



「バカじゃないブスじゃないきもくない!
あんた達のがずっとそうだバァァカ!」



ぼろぼろぼろっと泣いている。涙も鼻水もぼろぼろこぼれ落ちて、顔中しわくちゃで、女の子は泣いていた。
泣きながら、男の子達に言い返していた。精一杯、必死に。

その様子にその言葉に、何よりその顔に。テッシードは目を瞬いた。
初めて。3人が1人を引っ張って洞窟に来た最初の日から今に至って、初めて女の子の顔を見た。

涙だけでなく鼻水だって、それこそ水鉄砲みたいに出して、酷いものだ。
それくらいになるまでを静観していたのも酷い。
テッシードはばつが悪くなって視線を逸らす。岩肌ばかりのいつもの景色がそこにある。それを見ていたのも一瞬で、テッシードはすぐさま視線をいつもじゃない景色に戻した。叫び声が届いたのである。



「うるせっ、この!ぶすおんな!」
「痛い!う、わああああん!」



再び目にすれば今度は女の子の腕がつねられている。
わんわん泣いている。悲鳴をあげている。
それでも他の子達はあちこちつねっている。怒鳴り声をあげている。

テッシードは少し、目を尖らせた。
あんなに痛がっているのに。あんなに苦しがっているのに。やめないなんて何事だ。
むかむかと棘が硬度を増していく。


「ナマエのくせに生意気なんだよ!」


その言葉をきっかけにテッシードは岩肌に刺している棘を引っ込めた。
がしゃんと鉄の皮が雄叫びをあげる。ちょうど3人と1人の間に落下した。
ナマエ、ナマエというのか。テッシードはナマエを振り向いて、表面が鉄だから本当に苦手だけれどなんとか笑顔をみせて、正面の3人に向き直った。
泣いていた。
ナマエは泣いていた。
ジロリと見据えて、棘をきりきりと引き絞る。


さあ今からは自分が相手だ。







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