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□ヨマワルたちと疲れた女
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ああこれはちょうどいい、とナマエは思った。黒い影のようにやわらかくそよぐ体に、ましろのお面から覗く赤い目玉。ヨマワルは誘うように周りを踊る。
つられる目をぴたりと止めればヨマワルも止まる。暗い森の中で、だというのに同じくらい暗いはずのヨマワルは尚濃く、くっきりと存在していた。

ヨマワルは―――――夜が昇った森のヨマワルは、人の命を奪うとされている。とても縁起の悪いものである。
だがしかし。ナマエにとっては本当に都合がよかった。ちょうどいい好都合がふわふわ。浮いている。ちょうど死にたいと思っていた。森に入ったのもそのためで、さんざん引き摺り回した足が死にてえよおと叫んでいる。


「ああ死にたいなあ」

ちょうどよかった。
本当に。

死にたいナマエに死なせるヨマワルは巡り合わせだった。そんな気持ちをしみじみ滲ませて呟いてもヨマワルは首をかしげるばかりである。
ほとほと疲れたナマエの肩を小さな小さな手でつつく。
2回。3回。
そうしたところで肩にぶらんと腕をかけて、首をカッチコッチと振るのだ。ヨマワルは、どうやら話を聞いてくれるらしかった。


「いやあね、」


軽くなった気持ちのまま、軽やかになった口をナマエは開く。

ヨマワルはふわふわと足を泳がせて肩に留まって聞いている。


「なんというか、損する性分というか…まあ仕事がうまくいかなくて悩んでたのな。結構。それと、
最近どうにも周囲の人達から邪険にされててな…もういいわと」


赤い目がゆらゆらと焦点を定める。頬に視線を感じながらナマエは続けた。
むしろようく見てくれ、注目しててくれと思いながら。


「うんまあ疲れて死にたいなあと。そのつもりで森を歩いていたから、」


ここで一区切り、
ナマエはぴたりと息を切った。

ここからが肝心でここからが本題である。ヨマワルがいたならばちょうどいい。ちょうどいい頼み事がある。
肩に乗っかるそれほど重くない重さ。ヨマワルは確かに、肩の上で話を聞いている。試みる価値はありだろう。肩から降ろせばふよんと重みが手に乗っかる。


「あのさあ、ヨマワルってあの世の案内人とか言われてるじゃん。
出来れば死にたいんだけど、お願いできませんか」


ふよんとしたヨマワルは、ナマエの手に収まったまま首をかしげる。赤い目玉が1回2回。右から左へ動いた。
それから、正面を。―――ナマエを見つめ直して、手のひらから消えた。唐突に、不意に。感触だけが消えたと思えばヨマワルは目先に浮いて、手招いているではないか。おいでおいで。

「お、おおお」

通じた。まずそのことが一番の感心事である。夢心地ですべりそうな足を伸ばして留める。手招きしているヨマワルに歩を寄せれば、距離をとって、距離をとればまたおいでおいでと手で招く。
ナマエは招かれるまま足を寄せた。ヨマワルはすぅーと溶けるように森の濃く暗い方に行くのだが見失う心配はからきしなかった。

ナマエも同じくらいの速度でヨマワルについていった。ヨマワルが溶けるのと同じ様に、ナマエも黒い影を手繰り寄せる。





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