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□ヨマワルたちと疲れた女
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招かれるまま連れてこられた所は、特に何もなかった。森だ。変哲もない森のなにげない一部だ。

ヨマワルはそこでくるっと振り向いた。ゆらゆらと手を上下する。ナマエを指して、下へと下ろすので、されるままに足を折って座り込めば赤い目玉がナマエを追っかけた。それでよし。そう言いたげに見届けた目線が逸れる。
それからヨマワルは一声、森に向かって、鳴くと、ナマエの膝の上へと舞い降りた。きゃらきゃらと膝の上を転がりだす。


「もう、終わり…? え、あれっ。あの話ってガセかこら?」


ふよふよしたはしゃぐ物体を掴みあげる。独特の弾力と重量が手の中でくるんと転がる。
まさかポケモンに担がれたのかと訳のわからない焦燥が走る。なのになあにと言いたげな、他意のない目がそれを宥めるのだ。ナマエは途方に暮れて遠くを見やれば、そこからヌラアと。出てくる。ぽとりと落ちたヨマワルがまた膝に着陸した。

「……サマヨール…?」

薄暗い色合いに、ミイラのような体つき。暗がりから形を持って現れる。サマヨールだ。ナマエはあまり芳しくない知識から索引をめくって弾き出す。
のしりと歩いてくるのは、そう。サマヨール。緩慢に動くのに、そのくせ、あっという間にはナマエの傍に居た。

ナマエの横で、ナマエに目もくれず、真意の読めない目玉が真っ直ぐ前を向いている。それから沈黙。ただ動いているのは膝の上のヨマワルだけである。
ナマエはまじまじとサマヨールを眺めた。ヨマワルより少しだけ薄赤い目玉は見向きもしない。
ものともせずに視線を受け止め泰然としている。ぼんやりとしているというよりは思慮するようにサマヨールは正面を、ナマエの隣で見続けた。


「…おまえがサマヨール呼んだの」


膝の上のヨマワルを持ち上げる。しろいお面が斜めに傾いた。その面の奥の、赤い目がにこりと瞬いた。―――さてその意味とは。

分かるはずもなく。

再び膝に着地し転がりだすヨマワルに、ナマエは頭を捻った。なんの意図があったのやら。ころころ転げまわるヨマワルに、じーっと不動のサマヨール。
果たしてこのポケモンたちはなにがしたいのか。何をしてくれるのか。ナマエは膝にヨマワルを乗せたまま正面を眺めた。ぼんやりと。真横のサマヨールに倣って。ぼーっと。

時間が経っても変わらない。サマヨールは前を見たまま微動だにしない。ヨマワルは転がるのをやめない。そしてナマエは息をしたまま。何もしてくれないのかもしれない―――――時間の経過するにつれて疑念が膨らむ。
そうすると一緒に膨れ上がるのは死にたい気持ちで、むくむくとナマエの内を侵食していく。



「…死にたいなあ」



ぐずりと鼻が鳴る。水っぽいぐじゅぐじゅした声だった。規則的な空間を、ナマエが破る。目の上を熱い液体が巡った。

ぽろりと溢れる。熱い液体が頬を伝いだし、ヨマワルの上にいくつか落ちる。転がるのをやめて、ヨマワルは水源を見上げる。
赤々とした目がナマエを見つめるのを、サマヨールが眺める。ぽとぽとと流れ出した滴が落ちていく。数えきれなくなったところで、サマヨールはようやくのそりと体を動かした。


「ん…っぶう」


大きな手がナマエを襲う。顔面を。頭部を。その大きな手が覆った。いきなり息苦しくなるのだが、それがぐるぐると動き出すのだ。もみくちゃにされるナマエを、サマヨールはそれでも続けた。
涙も揉み消して、顔をあげさせて、頬を挟んで、大きなひとつ目と相対させる。


「なに、しにたい。もうすきにしたい、好きにして」


じいっと見つめる赤い目を、まだまだ水気の多い目で見返して、ナマエは言った。

一旦止んだ手の攻撃が、また始まりだす。もみくちゃにしたあと、サマヨールはナマエの頭を柔らかく包んで、がばりと大きな口を開けた。サマヨールの体を構成する、とても大きな虚である。それからナマエを食べた。







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