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□ライコウのNNはおっさん
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唐突だが、ナマエの家はジョウト16番道路の森にある。
森を分け入り、年輪を重ねているであろう木々の、ズシリとした材木で建てた頑丈な家屋がそれである。
捕捉するなら、ケンタロスの突進にも無傷、としよう。

その家に住むこと。

それが脈々と受け継がれ、また代々続く職業でもある。
要は森の管理職として、とおい、それはもうずーっと遠く昔に先祖が引き受けた。らしい。

森の手入れをし、ポケモンを保護し、全体を保持すること。
それが仕事の使命だ。
だがしかし。ポケモン達さえ入ればその住処のため、彼らがすべてしてくれる。結果的に、だが。

昔は密猟や土地資源の窃盗があったらしいが、昔は昔。今は今。
そんな話は祖父すら覚えがないという。よって職務にポケモンの必要性はない。

侘しい生活、だがそれがいい。―――悠々自適を体現するナマエは、この朝、たった今。
ピジョット便がきたポストを開いたまま、目を凝らしていた。



「―――…んん?」


ある日玄関を出るとその先には黄色いポケモンがいた。伏せっている。
おや。
首を傾げたが、ナマエはすぐに近寄った。ポストがからんと見送る。
四つ足の巨体じゃなかったら、ピカチュウと間違うこともない。

16番道路は牧場経営者が多い。
放牧地からポケモンが迷いこむ、なんてこともまあ、たまにある。

ざっとポケモンの全体を見渡す。迷いポケモンならタグがあるのだ。
そのポケモンには、その牧場の。タグを付けるのが義務である。


「ううんんんんっ??」
―――ナマエは、今度は、深く首を傾げた。
ない。
タグがない。
持たしていない可能性はまずない。経営はポケモンが全てだ。財産に保険をきかさないなど、ないだろう。


なら野良だ。野生ポケモンで、本当の本当に迷子ポケモンだ。

どこにも連絡する必要はない。必然的に項目は保護のみだ。
外傷も少ない。傷口からの出血もほぼ凝固している。
ならば様子見である。
センター利用はそれ次第だろう。


ナマエはまず家に引っ込んだ。食料室に入り、餌袋を3つ掴みだす。それを破り、家の周辺に引き摺ればラインの完成である。
匂いにつられてポケモンたちがやってくる。小さなものばかりだが、数と工夫で、運び込めるだろう。ぐるりと見渡し、運搬の算段をたてる。
ポケモンたちは餌を頬張っていて、ナマエにはあまり気を配っていないらしい。エイパムはナマエの足を椅子にしていた。


さて次は手当てだ。彼らの手が空く頃に運べるようにしなければ。
救急セットを持って、黄色いポケモンの方に向かう。大きい黄色。小さい黄色、黄色、黄色。

なんかピカチュウきた、とナマエは思った。

彼らはせわしなく周りを彷徨いている。彼らと彼の尻尾を合わせたり、無傷の部分を撫で労ったり。

ああ、同族誤認かな、とナマエは少し和んだ。

ピカチュウらの間に座り、黄色い巨体の傷口に救急スプレーを近づける。適度な距離をキープし、噴霧レバーに指をひっかけた、
瞬間。

倒れていたポケモンの、真っ赤な口と、鋭い牙がいっぱいに、
それは、もう、いっぱい、に

広がった。



「ウワアッ!?あ?―――あ。アイアンテールだ…たんこぶ増えたや……あ、いやいや。
ありがとうピカチュウ」



可愛くほっぺを寄せあげる勲章者に頭をなでて、手当てを再開する。
だいぶ楽になった。危険度もだだ下がりである。まさに怪我の功名。

ざぶとん1枚、とナマエは心うちで褒めた、自分を。

食べ終わる頃には、手当てもちょうど終えられて、家にも運びこめたので、ナマエは一息をついた。
帰っていくポケモンたちを見送りながら礼を言う。



さて。


重くもないが軽くもないのがひとつ、足にある。ろくに動けやしないだろう。となると、滞在してもらう必要がある。
寝そべるポケモンはぐでんとしている。イビキもかかない。睡眠で、深く沈んでいるのだろう。疲れをとりるため。回復のため。

さて。

ナマエは腰に手を当てた。

しばらく共に暮らすのだ。久しぶりの同居人だ。親しくしていきたいものだ。
なので、NN―――ニックネームは、譲れない。


青いヒゲ。ほっかむりのような房巻き。窪んだ目元…よしピンと来た。

ナマエは顔をあげる。



「はやくよくなろうね、おっさん!」
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