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□しあわせになる毒
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・アーボ


静かに朝日が滑りこむ。
夜明けだ。
ナマエの寝転ぶ周りには石灰質の殻がいくつもある。すべて卵"だった"ものだ。

そしてすべてアーボの卵だった。

無数のアーボが畳の上を這いつくばう。
卵からかえったばかりの彼らはまだ幼く小さい。指より細いのもいる。脱皮をいくらか繰り返して大きくなったものもいる。どれも皆、卵から孵したアーボだ。

甘えるためのか細い鳴き声を方々あげながら、何匹かがナマエを目指す。腕や足をくすぐりながら這い上がってくる。
和室の中で座布団を枕に、寝転がるナマエはぐたりとそれを受け入れた。


「おはようみんな」


付きっきりで面倒を見ていたので瞼が重い。全て孵りきるまで、と、全ての卵にヒビが入るまで見ていたのだ。
おかげで48すこし足らずの時間を寝ずに過ごした。

アーボたちは卵の殻を被りつつも、その間ずっといたナマエを記憶している。
だからナマエの方に、動けるものから順に寄りだしていくのだ。
本能的に、大丈夫ということが、分かっている。

全ての卵が孵りきった。コロンッとした小粒な卵の全てがだ。アーボの数もそれに等しい。
無数のアーボは、生まれたて故に細く小さい。それが寄り付くのは、ホラー映画さながらである。

正直に言うなら、ナマエはホラー映画は見ない。
グロ耐性はあまりなく、視聴者の不意をつく演出も不得意である。
だがこれが。
これがアーボであるなら話は変わる。無数の得体の知れない何かが寄り付くそれは、とても、―――魅惑的な光景だろう。


ナマエは躊躇せずに腕を広げ、脱力する。上ってきたアーボの、目があった内の1匹に笑いかける。



「おめでとう、今日が君の誕生日だ。これから、ずっと、一緒にいれたら嬉しいな」



にっこりと。

対人において使わなくなって久しい表情筋を惜し気もなく叩き起こす。

そうやって小さな小さな毒を与えるのだ。
生まれてきた褒美に、感謝に、消え入りそうな毒を与えていく。アーボの体に比例した小さな瞳に、花が綻んだ。

そして確信する。この人間は絶対。何があっても。傍にいる、と。
そう思わせる笑顔である。実際ナマエが思っている事でもある。


「何があっても私たちは家族で、味方だよ」


だから守る。そう語りかけてくるナマエに、アーボもにっこりと笑う。生まれていま使える限りの運動機能を駆使する。

ナマエが手を差し出すので、その指をかぷりと噛んだ。
絶対者に対して、最初のおねだりである。ではまずは空腹を満たしてほしい。卵を破ったばかりで、熱量が乏しいのだ。かぷりかぷりと噛む。


察したナマエは了解した。
なんとも可愛らしい必死のおねだりであることか。

生まれたばかりのその口に、牙も毒も今はない。



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