NT

□その好きには名前がない
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小さな頃から、わたしと鉄平はなにかと縁があった。

家が近くだったからよく遊んでいた。その頃から鉄平はおしゃべりで、しかも小さいから、余計に口数が多かった。
小さなわたしは内気な所があり、自己完結することが多く、当時親にしてみればとても手のかからない無口な子どもだった。


「あのねえ、おれ、これないしょなんだけど、あ、ぜったいね、他の人にはないしょ。な! 昨日うちの後ろであそんでたんだけど、すっげーかわいい犬見つけたの。見たい?」
「うん」

「じゃあ場所おしえてあげる。いっしょいこう。あ、そこもないしょな」
「うん」

「おれ本当はおおきい犬が好きなんだけど、探したりするのは大っきいとあぶないからダメなんだって。
あ。見つけたのは小さいから。あんしんしてな。ちっさい犬すき?」
「うん」


鉄平は喋りすぎて。
わたしは無口すぎて。
二人は決して友達が多い方でなかった。
だからか、わたしは鉄平とさらによく遊んでいた。片手で足りる年齢のときから、ずっと。ずーっと。何をするのも一緒だ。
鉄平のおじいちゃんに、鉄平の小さな手とわたしの手を繋いで、冒険ごっこと称し色んな所に連れていってもらった事もある。




楽しかった。
とても楽しかった。けれど、




そのときの悪いことをあげるなら、


わたし達は一緒にいすぎたのだ。



息をするのと同じくらい一緒に、鉄平とわたしは一緒に居すぎた。








「ねーねー!鉄平くんと付き合ってんの!」


「――――――





        え、?」


「きゃあー!やっぱり!!付き合ってんだってー!!」




え?  騒ぎになる外側でわたしは放心していた。
キャアキャアと黄色い声が上がる。その意味が理解できなかったのだ。
なにも言い返せないでいるわたしに、騒ぐ女の子たちに、
今度は男の子たちが、鉄平にわたしが好きなのかと聞いていた。ニヤニヤしながら。


ああそういうこと。


今でも覚えている、その、顔。
ニヤニヤしながら聞いてくる同い年の子達と、わたしたちの年齢は、子どもだった。加えるなら、ちょっとマセ始めた、がつく。

鉄平と居ることが当たり前だったわたしは、その年になるまで気づかなかったのだ。
一緒にいる事が、仲が良いだけで収まらなくなっていたことに。

言うな、鉄平。

わたしはあわてて鉄平の方を向いた。


鉄平は男の子の言葉にポカンとしていたが、
何を言われているのか理解すると、ニッコリと笑った。

「うん。    好き」

、終わった。

鉄平は素直というか、馬鹿というかアホというか、
ぺらぺらよく喋るし話すのが好きだったから、
聞かれたらとにかく深く考えずそのままを答えたのである。

キャアー!おおー! とか騒ぎだした周りを気にせずにわたしに向かって手を振る鉄平が大嫌いだと思ったのは、後にも先にもこれっきりだ。
その日以降、わたしと鉄平が一緒だったらとことんからかわれるようになった。

鉄平も、からかわれるままそれに気づかず、わたしにたくさんの「好き」を言うようになった。

好き、大好き、みんなよりもずっと好き、好き、好き好き大好き、好き好き好き好き好き好き好き―――――





「――――――――――――――うるせえ!!!!!」



ある日ぷっつんしたわたしはそう叫んだ。
しぃんと静かになった周りを置いて、わたしは家にかけ戻った。


その日から、わたしは家を故郷を飛び出すことを決意し実行した。



再生屋だった鉄平のおじいちゃんには、同業の知り合いが訪れることがよくあり、

同い年の子達よりちょっぴり、
ほんのちょっぴりよく考えることができしっかりしていたわたしは、それ以上の根気で両親を説得し、その中の1人に弟子入りすることができたのだ。



あの日から鉄平にはあっていない。大嫌いだと思ったのもあれっきり。
顔すら忘れてきているがあの時の怒りはまだ覚えている。あれ以上のものをわたしはあれ以来抱いたことがない。

現在、わたし、再生屋。

もちろん鉄平への「大嫌い」という思いの芽は大事に育った。
大切に育てた。
顔も格好もわすれた今では、彼と対面しても嫌いとは思わないだろう―――いや、―――わたしが鉄平と会うことは決してない。
もはや顔も声も格好も忘れたのだ。会ったとして、わたしはきっと他人だと思うだろう。

会うことはない。会ったとして、向こうが名乗らない限りは。
会うことは、ないのだ。

ただ鉄平という存在に、わたしはいまでさえ憎たらしいという色を付けている。








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