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□春夏秋冬メブキジカ
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春のやわらかな新緑の、夏のむせかえる濃緑の、秋のかぐわしい果実の、冬のかわいた木の葉の、匂いを嗅ぐ。

研究所の施設内で、人工季節下で試験的に育てたシキジカたちは見事にメブキジカへと育っていた。

「モモイロ、アオ、クレナイ、シロ。お前たち立派に進化したな…。おめでとう」

ナマエはメブキジカの、ふわふわの毛皮をつけた首に、顔を埋めた。深く息を吸い込んで堪能する。
育成係として捕まえ、トレーナーとして育てた冥利に尽きる。
蕾をつけたメブキジカが、くすぐったそうに身をよじった。

振るい落とされたナマエの首を、今度は別のメブキジカがくすぐる。今か今かと構われたがっていた彼は緑の繁る角を擦り寄せた。


「うぁあ…くすぐったい!」


手を突っ張って防御するも、それが燃えるらしい。
すんすんと鼻を鳴らして余計に距離をつめだした。くすぐったくてやめてとナマエが手で突っぱねる。反応に喜んだメブキジカはべろりとその手を舐めた。


「ぅうわぁあくすぐってえちゅーに!」


ぐいぐいと舌を押しつけ押しつけ、その都度、角に繁った緑がさらさらとナマエを擽った。

濃い緑がところ構わず責め立てる。ほっぺた、首筋、脇腹、うで。
ひいひいと息を切らすナマエとメブキジカの間を、ぬっと現れた紅色がひき割いた。立派に紅葉した角と体の斑点が目に映る。恨めしげに、きっ、と睨み付けているのだろうなあ。

背中しか見えないが予想はできる。目を丸くしたメブキジカが、なにより証拠である。
睨まれたメブキジカは、少し驚いたがすぐさま嬉しそうに目を細めた。角を振りかざしてちょっかいをかける。どん。緑の角が赤の角にぶつかった。どん。弾みで揺れた背中にナマエが押された。


「うわっ」


痛くはないが軽くもない。それなりにある衝撃がナマエを押し出す。倒れかけるナマエを、今度は背中からの衝撃が支えた。
桃色と白色のメブキジカたちが、足や腹で受け止めたのだ。冷たい鼻が心配そうにナマエに寄せられた。手を添えると途端に白い体毛で、視界がまっしろになる。


「大丈夫大丈夫、ありがとうね」


つややかな体を撫で上げると、そっと鼻が向こうへ向こうへと突いてくる。控えめに促してくる衝撃に、されるがまま後退すると、反対側ではため息が降りた。
そちらに目を向ければ蕾を揺らしながらメブキジカが騒ぎの中心へと向かいだすのが見えた。仲裁に入りにいくのだろう。やれやれ、と。しかし満更でもなさそうに向かっている。

騒ぎに入ってもすぐには治まらないだろう。きっと。


「…お前が守ってくれるわけだ」


メブキジカたちのバトルは間近では危険すぎるから。

頬に手を添えれば強い静かな瞳が頷いた。


「ありがとう、惚れちゃうね。そんなに優しくされちゃうと」


添えたままの手でゆるゆると撫でる。ぱちりと瞬き。そして目元をそれはもう優しく、優しく細めて、メブキジカはぺろりとナマエに舐め返した。そっと鼻を寄せて、身を寄せるとすぐに離れていく。
立ちふさがるように騒ぎとの間に立ったメブキジカの後ろで、ナマエは守られることにした。


「ああ。やっぱり大好き」


そんな言葉を送ってみる。

ぴくりと耳が動いて、メブキジカはまた目元に優しい溝を作った。他のメブキジカ達が聞いたら余計騒ぎそうなやり取りであるが、メブキジカは上手い立ち回りが得意な性分だったので、聞かれるようなことはなかった。お前たち、もう少し仲良く喧嘩しててくれと思うのだ。







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