pkmn

□孤独の偶像
2ページ/2ページ







警察官になるのが夢だった、わたし。凛々しいジュンサーさんが憧れだったけれど、熱くなるには、わたしの力量は圧倒的に足りなかった。

しかし夢は諦めきれず、わたしはブリーダーになった。
警官を補佐するポケモンを育てる、ブリーダーに。
諦め悪く夢にぶら下がった結果がこれだ。黙々とわたしは、同じくらい憧れだったポケモンを育てる。
小さなガーディだった、ポケモンはいまやウィンディ。これが。こうして育てることが、わたしの、ジュンサーの夢の果てである。
この威風堂々のポケモンと一緒に事件に向かうのを夢見ていたが、いまはそれも遠いことだろう。
しかし遣り甲斐を感じているのもたしかだ。

「これで君は立派な警察ポケモンだよ、いってらっしゃい」

ひらひらと手を振り、わたしは見送った。いつもの見送りの言葉を添えて。
今日出ていったウィンディは、すでに新しいパートナーを気に入ったらしい。
いいコンビになりそうだ。きっと数々の事件を通し、絆を深めていくことだろう。
去っていく一匹と一人の背中を送り、わたしは息を吐いた。あの広い背中は、これからもっと大きくなるのだろう。わたしが育てたより。さらに大きく。より広く。
遣り甲斐はある。
この仕事を認めてはいる。文句もなにもない。
夢とは離れてしまったが、これがわたしの身の丈なのかもしれない。
だが、ひとつ、こうして見送りの時ばかりは慣れなかった。
養成所から旅立つ彼らは、わたしの夢だった欠片でもあるのだ。子であり、希望であり、そして妬ましかった。
むくむくと膨れ上がるそれに、押し出されるように肺から空気が逃げていく。彼らを送り出すたびに穴が開いていくのだ。いつかわたしは穴だらけになった肺で、呼吸をつまらせてしまうだろう。

送り出すたび、沸き上がる暗い色に胸が侵される。えもいわれぬ疲労感で棒立ちになっていると足に衝撃を感じた。
ぶつかってきたそれは柔らかく、温かい。足にぴったりとくっつき、離れないそれと、わたしはしゃがんで視線を合わせた。



「お前もあれくらい立派になれるよ」



翳した手のひらに擦り寄るデルビルにわたしも撫で返す。
「きっと皆が認めるだろうね」
大きく、逞しくなった姿―――面影見えぬヘルガーの姿だ―――を想像する。成長したこの子の周りには、艶やかな黒い毛並みにしなやかで逞しい体躯にうっとりとする人々がいることだろう。

警官のパートナーはウィンディ。
正義を守るポケモンの象徴といってもいい。大体の人が想像する。
けれどこの子はデルビルだ。悪タイプ、とくれば尚更イメージから離れる。この種はグループ間での連携が優秀だ。そこを買われ、試験的に育成が決まったのだ。

あくまで、試験的に。

だからこの子に仲間はいない。たった一匹で育成所にいる。ガーディや旅立ちを控えたウィンディばかりの此処は、さぞ寂しいものに違いない。
必然的にこの子はわたしに懐いた。彼の仲間入りをしたのはわたしのみである。盲目としてわたしのみに気を許すこの子は孤独だ。そして恵まれている。
デルビルがヘルガーになり、旅立つ頃には、この子の周りには多くの仲間がいるのだから。そうしてわたしは見送るのだろう。今日のように。そして忘れていくのだ。新しい絆にわたしというわたしは消されていくのだ。

気持ちよさそうに目を細めるデルビルは、そんなことなど知りもせず、純粋にわたしに身を寄せる。わたしも撫でながら同じくらい目を歪ませた。







孤独の偶像





前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ