pkmn

□あああああ>クダリ
1ページ/1ページ






「ポケモン捕まえていって、何が楽しいって、ニックネームつけるのなんだけど、20超えたあたりで億劫になるんだよね。
最初のポケモンとか手持ちになるから、一生懸命考えるけど。
ひどいのが二桁越したときでさ、
なんかもういっか、
とか思わない?
ほんで適当につけんの。
“あああ”
“あああああ”
みたいな感じで。
いやあ懐かしいわよくやったよねーこうゆーの!
で、久しぶりに見ると愛着湧くんだよ、またこれが」



我が物顔で椅子に座る、勝者。
本日のバトルサブウェイ、マスター戦を制した彼女。
そして冒頭の言葉。
クダリは終始ぶっすりとそれを聞いていた。
指示する時のセリフを聞いたのだ。彼女がポケモンに「あああああ」「あああ」と呼び掛けるのを。

そして負けた。
まけた。
その三文字がクダリの頭をぐるぐると駆ける。
何とか口上を述べようともした。しかしその時にも聞いたのだ。その呼び掛けを。


「負けた…ぼく、あああとあああああに負けた……」


おかげで称賛を述べようとした心がぽっきりと折れた。クダリは床に座り、ドアに背を預けて繰り返し呟く。
あああと、あああああに、負けた。
人のネーミングセンスに文句をつける趣味はない。勝負にケチをつけるつもりもない。ない、のだが。これはいくら何でもひどくはないだろうか。
つまり彼女は懐古趣味に誘われるままにボックスを開いて、「あああああ」と「あああ」を見つけてそのまま、じゃあバトルでも。と、サブウェイに来たと。そう言っているので相違ないではないか。
個体厳選までして戦術、組み合わせまでの長年の成果が、パア。一瞬で地面に落ちるのをクダリは感じた。

ガタンゴトンと電車が揺れる。
ふっくりと柔らかく椅子に沈んでいく、その感触に、彼女からクスリと笑みがこぼれた。
クダリは床にべったりと座ったままである。

ガタンゴトンと電車が揺れた。



「車掌さんがそんな事していいの?危なくない?汚くない?」
「いいの。車掌だもん、ぼく」
「ふぅん?」



答えたクダリの内容が面白くなかったのか。彼女は興味を無くしたように窓の外に視線を変えた。
その様子にクダリはむっと、口を曲げた。
聞いてきたくせに。そんな思いで頬を膨らます。
しかし彼女は目を丸くしただけであった。パシ、と睫が目の縁を叩く。何でへそを曲げてるの。とでも言われたようであった。
白い帽子に隠れた顔に朱が走る。



「…」
「あれ、どっか痛いの?」
「っ!だ、大丈夫!」



大丈夫、と顔色を伺う彼女からクダリは目線を逸らした。

「ならいいけど…」

本当に大丈夫、と心配そうな目が彼を見る。

ポケモンをボールに戻してベルトに填める。ふらりと細い足首が揺れた。クダリはなんとなくそこから目を逸らして電車のドアを見た。なんとなく後ろめたい気持ちになったから。

そしてガタンゴトンと揺れる電車が止まる。


駅に着いた。


「サブウェイにまたどーぞ……」



クダリは気のない賛辞も付け足した。兄がこの場にいたら張り倒しそうな言動である。
しかし彼女は目をくりっとさせて首をかしげるだけだった。おや憤慨されてもおかしくないのに。軽く目を見張るクダリである。こうも邪険にされないと不思議なものだが相手に好感を抱くものである。

ぽっと出に負けたショックに因るところが大きかったが。
とにかく。
なんとなく心のすく思いを感じた。
そんなクダリを見て、名前も知らない彼女はくすっと笑う。



「またね車掌さん」
「あ…!ボクの、ねえ、名前だけど―――!」



 プシュっ ガタン

それだけ。

軽く会釈をして下りた彼女とクダリをドアが隔てる。ねえちょっと待ってよ。
はやる気持ちを押さえきれずにドアの向こうの彼女に駆け寄るが、もはや彼女は背中を向けた。両脇にはポケモン。
女の手が2匹のポケモンを撫でる。口が音を成した。聞こえはしないが、分かる。

「あああああ」と、
「あああ」と言ったのだ。きっと語尾はお疲れ様、だろう。

そう思うと名前すら聞かれず名乗れずな自分が悔しかった。

目下のところ、クダリは1音だけの名前すらに勝てないのである。


</>
 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ