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□ベトベトンが近づいてくれない
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※ベトベターが触ら〜 の続き



毒タイプは進化すると大体の場合、その毒に磨きがかかる。より強力な毒の生成ができるようになるし、毒の扱いが上達するからだ。


「けどまあ!関係!ないよね!トレーナーに耐性出来てくるのもあるけどポケモンが毒弱めてくれるもんね」


じりじりと距離を詰めていくナマエの目は据わっている。ベトベトンを見る目は歴戦の猛者あるいは狩人である。口調こそ流暢だが顔はマジである。ゆらゆらと体を揺らす動きはなにかの玄人じみてすらいた。
運動経験は皆無だが気迫がそれを打ち消したうえに上塗りしている。腰を落とした姿勢や横に広げた腕が余計威圧感に拍車をかけていた。

姿勢そのままでにじり寄りつつ、祝いの気持ちの言葉と欲求を伝える。


「進化おめでとうベトベトン。さあ、喜びを、分かち合おうよ、さあさあさあ」


対峙するはベトベトンである。

彼は涙目で壁際にへばりつきふるふると首を振って拒絶の意を表明している。進化して大きくなったばかりの慣れない身体を健気にずっと壁に押しつけている。しかし無情。
時間が経過すればするほどに距離は詰められていく。慣れない身体は我慢をきらしていく。意志に反して弛緩していってるのが分かる。

殺られる。
ベトベトンの脳内に絶体絶命の文字が流れ、本能が再度告げる。殺られる、と。
だが逃げたくても慣れない身体は言うことを聞かなかった。
逃げたいのに逃げれない。目に張る水膜が分厚くなる。ベトベトンの視界が歪むがすぐにクリアになった。

毒だらけでない、シンプルな手がベトベトンへと伸びてきているのが、彼の目に映る。柔らかで清らかなのを象徴するかのごとく、おだやかな肌色をしている。
それは毒を纏うことのない色だった。

それが、やわらかく、やさしく、涙を拭い取っていく。

一瞬、何をしていたのか忘れる程に、ベトベトンにとってその心地は甘やかだった。ずぶりずぶりと自分の身体を心地よい感触が侵してくる。思わずうっとりと力が抜けた。
泣くことも忘れて受け入れる。
進化しようが素直で疑うことを知らないで、純粋であるところは変わっておらず、変わらない手持ちの性分にナマエは笑った。心地よさげに目を蕩けさせているベトベトンに頬が弛んでいく。


「大丈夫、汚くない。こんな心が綺麗なベトベトンの毒が毒なわけがない。むしろ薬です本当に」


超理論が超展開である。
しかし至って本気である。

本気であるからこその触れ合いだった。質量のある水音を立てながら沈んでいく手に、ヘドロを被う粘膜が浸みて黒ずんでいく袖に、気分は幸せ急上昇だった。
念願のボディタッチだった。
なにぶん、ベトベターの頃から触れられることを避けられていた。まともに触れ合えたことがない。自分の可愛い手持ちであれば愛でたいのがおや心。ああ触りたい。
けど逃げられる。

でも触れ合いたい。

けど逃げられる。

鬱憤は溜まる。

そして目を付けたのが進化の、身動きのとれなくなる瞬間である。待ちに待った瞬間である。
その一瞬のために磨き上げた捕獲力と募り上げた執念である。
あの晴れた日の反復横跳びは無意味じゃなかった。あの雨の日のカバディは無駄じゃなかった。涙を呑んだ日々は虚しいだけじゃなかった。
心に達成感を抱えてとっぷりと紫の身体に肘近くまで埋める。


「はあ〜〜ひんやりして、気持ちいい…癒やされる〜ベトベトン愛してるぅ…」


目をつむって苦い思い出と対比しながら幸せを噛みしめる。
長年かけての野望が叶った瞬間は、まさに蜜の味と断言できた。

一方で、ベトベトンはぷるぷると震えだしていた。
現状を把握した彼は逃げようとずりずり動くが、しっかり乗り上げられては一緒に動くだけになってしまう。
どころか、頬をすりつけられながら言葉が落ちてくる。


「あっ、この振動クセになる…」


ベトベトンは色々な意味で泣いた。
ちょっと本気でやめてほしい。
安全のために避けていた努力と我慢が水の泡となって物凄い勢いで消えていってる。

もしベトベトンに人間の言葉があれば、悲鳴と、薬も過ぎれば毒であると注意を、挙げれていたろうが、
悲劇哉、彼は伝える言葉を持っていなかった。よけいベトベトンの涙腺に拍車がかかった。しかし降りてくる気配はない。

やはりというか、気を失って転げ落ちてくることになるのだが、それまで命がけそれだと自覚のない文字通りデスコミュニケーションは続いた。
ビニルシートでナマエを運びながらベトベトンはボロボロ泣いた。やっぱり努力と我慢をすべきであったと、今後の逃げっぷりに磨きをかける決心を固く誓った。

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