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□死んでからが本番
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それは偶然の産物だった。
“たまたま”が何度も重なり、ほとんど奇跡といっていい具合の、偶然が作り上げた出来事だった。

事の始まりはブラック本丸の処理についての議題がでたときであった。単純に歴史修正主義者と同じくらい、場合によればブラック本丸の方が、時として問題視されるほど重要な案件である。
審神者あるいは刀剣男子、どちらか、あるいは両方のフォローが必要なのだがより問題なのは刀剣男子らである。人間の枠に入らない彼らの処理は、人間のそれよりも厄介なのである。

やれ祟りが出た、やれ後任が斬りつけられただの、対応を間違えば「死」がイコールとしてやってくる。
審神者はそもそも特別な能力を持っているので、一般人から探すのにまず手間だし、それから1人前に育てるとなると、もう大変だった。
時間と金と労力とを膨大につぎ込んだ、すべてを一瞬で砕け散らかす存在。それがブラック本丸だった。しかしそういった所の刀剣男子はたいてい練度が高いケースがほとんどを占める。

ブラック本丸でした。そうですか、はい白紙、なんてことはしたくないし、なってしまったらもう目もあてられない。
すべての処理や調整に追われ、追われ、追われてたどり着く先は燃え尽き症候群である。ブラック本丸はその処理にあてられた政府職員らの気力もこそぎ落としてしまう案件だった。


「どうしたもんですかねぇ」
「最近摘発された本丸の担当の方、仕事途中で倒れられて、体がすっかり弱ってるんでしょう?」
「心療内科にもかかってるそうですよ」
「うっわぁ…」


とある会議室、とある会議にて。
会議は踊らず雑談が踊り、だからもちろん中身が進むはずもなかった。
こういったのはもう、なるべくしてなるのだから、対応がしにくいのだ。本丸なんてものは体よく言った呼称で、穿って見れば自由な刑務所とも言える。
そんな環境では人間、次第に劣化していくというもの。閉鎖空間なだけに支援もしにくい。

ただ問題なのに違いはないので、こうして定例会議が開かれる。しかし進まない。

「何か、いい案がありませんかねえ」

米神をもみながら議長らしき人物が問いを投げる。それを受けて数人が天井を見上げうーんと唸る。しかしいい案なんてない。
どんよりとした空気が会議室を占拠した。
何人かは椅子の背もたれで遊んだり、用意されたペットボトル飲料のキャップを開けては閉めてと繰り返している。


「もう、使い潰しのない人材が用意できたら万事解決なのになあ」


だれが言ったか、ぽつんと静まり返った部屋に石を打つ。
一瞬の沈黙。言った者はさすがに失言だった、と内心焦りつつも姿勢を正した。これは顰蹙ものだろう、と。だが待っていたのは満場一致の感嘆と共感であったのだ。予想外にもほどがある。さすがに失言だったが、絵空事をもろ手を挙げて喜ぶあたりみんな疲れてる。

「皆さん静粛に」

と、ここで議長が鶴の一声をあげた。
同時にマーカーを掴み、ホワイトボードに字を書き連ねていく。

 理想の人材を求めるには?

ホワイトボードにはそう書かれている。あかん議長ぜんぜん正気じゃない。よくよく見れば目が不気味なくらい輝いている。らんらんしてる。
しかし暴走を止めるものはいない。だってみんな疲れてる。だいたい会議をおこなうのはブラック本丸担当者である。その正気度、おして知るべし。


「ではまず、この人材をより具体的に掘り下げ、どう探すかを話し合いましょう」
「はい。死なない人はどうですか」
「いいねそれ。折角時間空間渡れるんだから、そこから探せるか?」
「それなら歴史への影響はどの程度かも見ないと」
「じゃあそもそも不安定な時空を探せば…幸い科学はめちゃくちゃ発展してる現代ですし…」
「ああ。まずくなったらぽいっとするのね。いいじゃない」


そこからは早かった。とんとん拍子なんてもんじゃない。トンで決定、次のトンで実行してるくらいの早さだった。

解散後すぐに各々が各方面と連絡をとり、その場所その場所で悲鳴があがるもごり通し、気づけば一大プロジェクトとなっていた。
審神者制度を作るときくらい大がかりな規模を巻き込んでの企画となったといえばよいか。とにもかくにも科学と、二人三脚で発達してきたオカルト学とを振り絞ってなお取り立てる勢いで活用した。

その結果が今日である。

ある一室にて数人の神職姿が中央を陣取っていた。周りにはお札や幣、供え物にもしもの時の式神などなど。物々しい雰囲気をかもし出している。
その部屋と分厚く頑丈なガラスを隔てた隣の部屋ではお偉いさんやら責任者やらが固唾を飲んで成り行きを見ている。
いっとう格の高そうな神職姿の老人が声に力をみなぎらせる。合わせるように周りの声も張りあがった。


「…来ます!」

「「おおっ」」


そうしてようやっと現れた人物を軸に、プロジェクトは真に産声を上げた。不可能を可能にしたのである。権力の暴走って怖い。

そうして彼らはまずひとつを誤った。
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