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□刀剣乱舞詰め合わせ
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門のところまで山伏国広と2人で行けば、こんのすけが転移の術式を拡げたまま待っていた。こんのすけは2人の姿を見つけると、頭を深く下げた。
初めこそ不自然さと違和感を抱いたが今ではそれも親しみのもてるひとつとなった。

門まで道を作るようにして刀剣たちが並んでいる。待っている様子はそれぞれで、涙を浮かべていたり笑っていたり常通りだったり、などだった。
すべて揃えきっていたわけではないが、それなりに増えてきた人数分、全員が並んでいる。ひとりひとり確認しながら声を交わしながら進む。門に一番近いところには初期刀と初めて自分で呼び起こした短刀がいる。それぞれに挨拶を交わし、門の前に立つ。両脇には1番長く苦楽を共にした刀剣たち、その後に並ぶのが過ごしていくうちに増えてきた刀剣たち、そして彼らが作る道の中央にいるのが山伏国広である。
そろっている面々を見わたし、堂と立っている山伏国広へと向き直る。まっすぐ真摯な目とかち合った。こんのすけが山伏国広の、すこし前へと躍り出る。ひたと見上げてくるまん丸い目も、わりかし感情のあるものだと過ごしていくうちに分かったものだった。こんのすけへと呼びかけると、こんのすけは再び頭を下げた。

そんな改めなくてもと思うが、それがこんのすけの性分でもあると思い直す。最後くらいは少し畏まったものでも悪くはない。最後と意識すればするほど、離れがたくなる。過ごした記憶はすべてここに置いていくのだから、そのことすら忘れるのだから、惜しいとも思う。しかし踏み出すことを躊躇することはない。たくさんの仲間が今この時ですら支えているのだから、自然と背筋も伸びるというものだ。


「審神者さま。決して容易ではなかったお勤め、成し遂げていただき、御礼申し上げます」
「いえいえ」
「それでは、お送りいたします。着いた時には記憶も消え、こちらに来る前と同じ場へといらっしゃることでしょう」
「うん」


これで本丸過ごすことも終いとなる。
まっすぐに向き直った。山伏国広はそれに気づいて朗らかに歯を見せた。少しばかり目に力が入っていると思うのは自分の都合のいい解釈ではないと願いたい。彼を起点にもう一度、全員を見渡す。最後にこんのすけへと戻り、頷いた。そして背中を見せる。
門をくぐれば元いた時代だ。足を踏み出す前に、肩ごしに振り返って、笑ってみせた。


「じゃあまた」






するりと風が首を撫でていく。


少しばかり熱を盗まれた首をさすりながら道を歩く。とうぶんは髪をきらなくていいか、などと往来で考えていたせいか、通行人と肩がぶつかった。


バランスを崩し、転げか、というところを反射で体が動いていた。手と膝をついてなんとか免れる。
勢いの良さで少々痺れる。そのせいですぐに立てないでいると、ぶつかった見も知らぬ他人は立ち止まり、わざわざ引き返してくれたようだった。


黒いスーツをまとった足が視界に映る。


「すみません」
「いえ。ちょっと勢いよくつんのめっただけなので、大丈夫です。すみません」
「すみません。本当に、ありがとうございます」


立ち上がったのを見届けるや否や、スーツの他人はやけに丁寧に言葉を紡いで去って行った。仕事の外回り途中だったのだろうか、無駄のないきっちりとした歩き方だ。デキる人間という言葉が形を為したらああいうふうに動くだろうと想像できる。


「…大丈夫?」

今度は横手から人の声がかかる。

派手に転んだせいで人目を引いたのは手と膝をつく瞬間でも感じていた。加えて、背広が遠くへ消えてもぼうっと見送り続けていたからか、安否を確認する声がかかる。その声に、ようやく気を戻して、声のした方へと向き直る。子どもと、その兄だろうか、青年と少年の間くらいの2人組が心配そうに見守っていた。


「あ、大丈夫です。ちょっとぼーっとしてただけで…。ありがとうございます」


会釈し、別れた。

家に着くとちょうど小腹がすく頃だった。小腹といわず、空腹を訴える腹に首を傾げる。まるで長いこと動いていたようだと思いながらもなにか腹に入れれるものはないかと戸棚や冷蔵庫を漁る。発掘したお菓子とお茶を手にリビングへ向かう。
ソファに座り、ローテーブルに食糧を並べる。そのまま手を横にスライドしてリモコンを拾ってテレビの電源を点けた。数秒見て、変える。変える。変えて、ソファに身体を預ける。

「あー…」

時間帯上、あまり目玉な番組はないらしい。主婦向けのドラマや生活の知恵、ゴシップなどがほとんどを占めている。リモコンでチェンネルを変えて、一周した。特に見たいものはなかった。
空腹感も満たしたし、横になって寝るくらいか。そう思ってまさに足をソファに上げていたときである。軽快な音が響いた。チャイムが鳴って呼び出すので、上げていた足をそのまま床に下ろしてソファを立つ。はーいと間延びした返事を大きめにし、玄関まで歩く。

のぞき窓から見えた姿は宅配業者であった。
鍵を開け、ドアノブを回すとやはりそうであるらしく、長方形の箱を抱えていた。宅配業者は青年であるらしく、家の者が現れると闊達な口調で「〇×宅急便です」と申しでた。目深に被った帽子から全貌は見えにくいがなかなか好青年である。


「こちら宛てにお荷物が届いております。受け取りのサインをお願いできますか?」
「あ。はい」


長方形の箱の上に受領書を載せ、差し出される。ボールペンも添えてあるので、それを拝借して紙面に滑らせる。頼んだ覚えはないが、親戚か懸賞かなにかからだろうか。ボールペンと、サインした紙から手を離すと、青年は片手だけ離してそれらを回収した。

「ありがとうございます。それでは、お受け取りください」
「あ。ありがとうございます、お疲れ様です」
「はい!」

青年は朗らかに笑った。少し尖りがちな八重歯が明るい印象に拍車をかけている。上向きがちになった表情で、見えにくかった目元もあらわになった。目のすぐ近くにある小さな十文字傷と、最近の流行なのか赤い隈取がほんのり施されている。ただ、やはり闊達で好青年然とした印象は変わらなかった。
青年は帽子のつばをつまんで一礼し、かっちりと視線が重なり合う。軽くお辞儀をしてもう一度お礼を述べると晴れ渡るよう力強い笑みが青年の顔に浮かんだ。元気よく小走りで戻っていく姿は疲れとは無縁そうな逞しさだ。

渡された長方形の箱を抱えてリビングへと戻り、箱を開ければ出てきたのは刀だった。橙色の束巻と鞘が艶やかで、なんとも高価なものに見えるが、さて送り主は誰なのか。日本刀を送ってくるような知り合いはいたか、どうか。
考えても心当たりはない。手に持って分かるが、ずっしりとした重量だ。オモチャというわけでもないだろう。きっちり日本刀である。さてどういうことか。首を傾げる。


「別に気味が悪いわけじゃないんだよな…」


鞘をなぞると、桜の花弁が舞い落ちてきたが、テーブルのガラス製の天板に溶けるようにして消えた。
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