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□拳で語る格闘言語
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ある日置かれたのは、1つのモンスターボールと1つの石だった。


「一緒に暮らすのと退院のお祝いに、プレゼントだよ」


ナマエを救いだし、ナマエを保護した男は言う。

「雄の、ラルトスというエスパーポケモンだ。普通に育てば最終的にサーナイトだとかになるらしい」

ボールを少しだけナマエの傍に寄せてやった。目線がそちらへ向かう。男はそれを確認して続けた。
「…だが」
もごつかせ、口を閉じる。迷っているようだ。出にくい言葉を、舌に乗せるのに必死なようで。

少しだけ詰まると、男は再び口を開いた。



「雄は、サーナイトの前の、キルリアの時にこの石を使うと…エルレイドになる。……格闘タイプ、を、一緒に持つんだ。」



最後の進化は、自分の思うように選びなさい。選んでいい。
―――そう告げられた。
これから共に暮らそう、そう言う日に、男はナマエにそう告げた。

意図が分からず、その時は、ただ、「かくとう」と。男の口から、そんな音が作られるのを怖がった。

だが分かる。

今ならば分かる。

それは怖がるなという事だった。

全部のポケモンを怖がるのでなく、格闘タイプだからと嫌うのでなく、
過去を呪わず、棄てず、踏まえた上で、選んで欲しい。
そういう意味だったのだろう。あらゆる事からもラルトスは相性がよかった。
ラルトスは他の感情に敏く、また聡く、それ故にすべてを退けても大事なものに唯一を置くという。だから、ポケモンに対して恐怖を抱きだしていたナマエにとって、まさに無二のポケモンであった。

ナマエは、そのラルトスを見る。
いや。
今ではキルリアだ。そして自身も大人となった。



「今まで、守ってくれてありがとう」




じっと見る。
伝えたいことはたくさんある。
過ごしただけの思い出がある。その分だけの想いが、少しでも伝わればいい。でも少しだけでいい。
謝りたいことも、言えないこともあるのだから。しかし彼らの種族は聡い。知ることはなくとも、感じ察するところとなるのだ。だから、そういったことは、ナマエは言葉にしたかった。たとえば、


「待たせて、ごめん」



キルリア以上の進化を、望まなかったこと、とか。


進化しないでもよいとするポケモンはごまんといる。だが、ナマエのキルリアは、進化を望んでいたのだ。
それを留めたのは自分だ。拒んだのは自分だ。

ぎゅっと拳を握れば白い手が重ねられる。キルリアだ。
両の手に入る力を、まっしろな手はほどいていく。さらさらと撫でて解いていく。

朱に濡れて輝く目と重なると、彼はふんわりとはにかんだ。
赤い角がひかりだして。笑んだ目から涙が溢れていく。
精一杯の伸びをして、キルリアはその角を近づけた。

淡い光はあたたかい。ああ、と、ナマエは思った。しあわせだ、と。
そして願うなら、彼もそうだからこその光なんだと思いたい。―――ぽとんと涙が零れた。
もういちど、拳を作り力を込める。今度は白い手は来なかった。
キルリアは咎めない。
決意しての拳だからだ。やはり彼は聡い。だからナマエは安心した。



「もう大丈夫。もう待たせない。決めたから、キルリアとなら私はきっと、なんだって立ち向かえるって」


彼らの傍らにはきれいな石がある。
あのときの進化の石が、このときに、使われようとしている。キルリアをエルレイドへと、今日この日、進化する。

ナマエは石を手に取った。
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