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□拳で語る格闘言語
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格闘タイプは総じて自己の精進に余念がない。常に己を鍛え、高め、強くする。
そこには譲歩はなく、妥協もない。ゆえに心を砥ぎ、体を鍛えて日々をすごす。そのような習性を格闘タイプならばどの種も有している。

強さこそすべて―――野生であろうが共生してようがそれはある種の本能である。
要は"弱肉強食"である。


そんな格闘タイプだから格闘家やスポーツ選手―――――体育会系な気質の人間は好んで相棒とし、ポケモンもそれを好ましく受け入れた。
体を動かすもの同士、相性は抜群だったのだ。
ナマエの家族は皆が皆、彼らを好んで愛用していた。否。それ以外のポケモンを見下していた。そのような節がある。

幼い頃に与えられたナマエの初めてのポケモンは、
仲良くしていた野生のコラッタではなく、両親のポケモンから生まれたタマゴであった。もちろん、格闘タイプだ。
不満を言ったナマエに両親は格闘タイプ以外がいかに惰弱かをこんこんと説いた。目眩がした。その日初めてナマエは両親に強烈な殺意を覚えた。


反抗心が血管を巡り、身体中に漲った。
しかし残念なのは、それを実行するだけの体力がナマエにはなかったのである。
才能という内因から、環境という外因から。ナマエには抗うだけの力が無かった。


彼女はどうしても平均的だった。

加えて悪いことに、一家は特に"弱肉強食"の観念が強かった。
弱者は死ね―――そう言い換えても良いほどに。

だからナマエの成長環境は劣悪だった。相乗効果である。
凡人である彼女に、一家のバケモノ級の運動をこなせるはずはなく、
着いていけれないオーバーワークは如実に現れた。
体調の悪化だ。
だが風邪を引いたら気合いで治せ。気分が悪いのは惰弱な証拠と。一家はさらにナマエを鍛え抜いた。
反比例して身体機能は鈍くなった。


時には食事すら修行の一環として取り上げられる。
精神の修行だ、とか言っていた。


止める者は誰もいない。家族が主犯で、ポケモンたちは共謀である
つまりはナマエの弱さが、
ナマエが、
とてつもなく下等で醜く、なんの価値もないものに映っていたのだ。

それはナマエのポケモンであるはずの手持ちすらも同様である。己のおやである分、その意識は一層強かった。
そして一家を止めないのはそれが愛であり、信じることだと、確信していたのだ。

弱さを叩き直してやることこさが彼女のためで、愛の形である。
―――――そう信じていた。
彼らもそうしていたから。

両親や、兄弟、ナマエの一家が大会などで不在のときは、それはポケモン達の役目である。愛情を直に与える唯一の機会でもあった。
こん限りにポケモンたちはナマエを鍛えぬいた。
そしていつも脱落するナマエを情けなく思った。
そして愛しく思った。ああ彼女にはもっと、自分たちが必要だ、と。


だからナマエに逃げ場はない。拠り所もない。憩う場もない。
体力は落ち、悪化した。
心は潰れて、劣化した。


しかし休める場所はない。



いつがしか、ナマエは倒れた。らしい。
というのも意識を失っていたし、当時そこらの時期の記憶は抜け落ちている。
倒れたナマエを掬いあげたのは両親でなく、兄弟でなく、
ましてやポケモンたちでなく、出稽古に来ていた他道場の門下生だった。


彼は怒り狂った。
ナマエの体調、発育、様子。どれをとっても異状である。
不審に思い聞けば、一家は悪びれずにすべて白状したあげく切り捨てた。
この子に才能がないからと。たった一言で、ナマエを。その今までを。切り捨てたのだ。


出稽古に来ていた彼は怒った。
怒り狂い、己を使い、ポケモンを使い、ナマエをそこから引っ張り出した。
怒鳴る一家を空いてる足で蹴り飛ばし、がむしゃらに取り戻そうとしてくるポケモン達にポケモンで応戦し、
病院に連れていき、ナマエがベッドの上で目覚めたときには全てが終わっていた。



以来、ナマエは門下生の彼のもとに引き取られている。
その頃の記憶はない。もやがかって、穴が空いて、不鮮明で不明瞭である。何をしたか。何があったか。思い出せるものはない。

ただ刻まれているのは、自分を疎んじていたはずのポケモンたちの、悲痛なのか、分からない、
強いはずの彼らの、鋭くも弱々しい、声である。

何を意味していたのか、
何のためにあげたのか、
未だに耳に残るその声を、ナマエが聞き受けることはない。

彼らがナマエに愛を示し、伝えるには、拳で語り過ぎていた。



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