short U

□ハナヒラク
1ページ/2ページ


ハナヒラク


なんていうか。

風にふわふわしてる、アイツの髪を見るのが好きだった。

なのに。

「かわいー」

「どうしたの?思い切ったねー」

女友達に囲まれたアイツは、小さく笑っていた。

「切りたかったから」

そう言って、わしわしと短くなった髪を触った。昨日までは腰に届く位にあったのに。

なんていうか。

もったいねぇだろぃ。

「もしかして…失恋?」

「そんなことないよ」

「怪しいなー」




なんでだか。
…頭抱えたくなった。

バッサリいった髪を見て、最初に思い浮かんだのはその二文字。

否定するアイツを見れば、無理して笑ってるようにも見えるし。

それに。









どうしてそんな気になるんだ俺。

「どうした?ブン太。頭なんか抱えて」

ジャッカルが不思議そうに俺を見る。
あー、そういえばもう昼か。

女達はいつの間にか、昼飯に行ったようだ。

「昼飯行かないのか?」

「おー、行く行く」

気を取り直して、立ち上がるとポケットに入っていたガムを口に放りこんだ。








俺の席は、アイツの席より後ろなわけだ。

イヤでも目に入る。

窓から入った風が、髪を揺らしていたのに。
今は揺れてない。

揺れるだけの長さはないから、当たり前なんだけどさ。

今更気がついたけど、俺はアイツをこうやって後ろから見てたんだなー。

…て、待て。

それってもしかして、って、もしかしなくても、つまりはそういう事か?

つーか、失恋だかなんだか知らねーけど、どっかの誰かのせいで髪切ったって事だよな。

どこのどいつだよ。

ふざけやがって。



て、なんだかもう、わけわかんなくなってきた。

「はい、今日はここまで」

先生がそう言った声が耳に入った。
気がつけば、授業が終わってたようだ。俺はまた、ポケットのガムを口に放りこんだ。









「丸井くん、黒板お願い」

「おー」

今日は部活も休み。
早く帰れるかと思いきや日直だったのを忘れてた。
しかも、アイツと一緒。

もしかして、もしかすると…なんて考えちまうと、なんか落ち着かねぇ。

黒板消して、手を払うとアイツが日誌から顔を上げた。

「ありがとう」

小さく笑った。

…まぁ、なんだ。
短いのも、悪くねぇけど。

「なぁ、なんで切ったんだ?」



…て、何聞いてるよ俺。

「みんな、失恋だのなんだの言うけど」

「イヤ、悪ぃ。別に言わなくても…」

「飽きただけなんだよね」

は?

「…なに?きょとんとした顔して」

「失恋、とかじゃねぇの?」

「うん」

なんだ、そっか。

「そうなんだ」

「うん。どうして?」

どうして?

「長い方が、良かった?」




うん。

そう言おうとして、飲み込んだ。



*
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ