シャルル=ダ・フールの王国

□暗殺編6章〜7章
1ページ/24ページ


6.昔話

 赤い血が止まらない。
 カッファは自分でも驚くほど動転していた。
 医者が来るまで、自分でも傷口を押さえてやりながら、カッファは目の前の青年を見た。痩せているが血色はよかった青年の顔色は、すでに血の気を失い、土気色に近い。
 青い羽根飾りのついた兜をはずし、青いマントを血で染めた青年の大きな筈の目は、今は半分瞼が下がっていて、そのまま眠ってしまいそうで恐かった。
 ここで気を失ったら、おそらくこの青年は二度と目を覚まさない。
「な、…なあ、…カッファ……」
 ぜえぜえと苦しそうに息をしながら彼は言う。
「ごめんよ、オレ、こんな筈じゃなかったのにさあ……。よそ見してて撃ちおとされるなんて、オレって最後まで馬鹿だよなあ。」
「そ、そんなことは! いいから、今は、助かることだけを考えなさい!」
「な、カッファ…。…こんな事言うと、迷惑だとは思うんだけど、…一言だけ…言わせてくれる?」
青年は少しだけ咳き込んだ。唇の端に赤い飛沫が飛ぶ。そして、彼はうっすらと微笑むと、目を閉じながらぽつりといった。うっすらとどこか寂しげに笑った口許が、ゆっくりと開かれた。
「オレ、あんたのこと、一度でいいから父上って呼びたかったなあ。」
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ