シャルル=ダ・フールの王国

□暗殺編四章〜五章
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4.青兜(アズラーッド=カルバーン)

「シャー! シャーってば! しっかりして!」
 ラティーナの声が、聞こえ、シャーは不意に目を覚ます。目を開くとラティーナの心配そうな瞳が飛び込んできた。女性から心配されたなど、何年ぶりだろうか…もしかしたら初めてかもしれない。
「何〜、愛のこもった朝のご挨拶ですか?」
 にへらと気の抜けた笑みを浮かべ、シャーはラティーナに訊いた。
「寝ぼけないで! 状況見なさい。」
 ラティーナの怒鳴り声が響いたのか、急に後頭部が痛んだ。そういえば、目を覚ました時から体が重いし、頭も痛かったのだが、のんきなシャーはそれに気づくのが遅かったようである。
「い、いて…って…。」
 頭を撫でようとしたが、彼の手は、自由に上には上がらなかった。後ろ手に縛られているのである。
「あ、あれれ…。これ、何の冗談。」
「冗談なわけないわ! 見なさい!」
 同じように縛られているラティーナが、顎を上の方にしゃくった。
「わお。」
 シャーは、周りをいかつい男たちが囲んでいるのを見て、ふざけているのか驚いているのか、わからない声を上げた。そこには、そのような男たちが武器を携帯した上、十人近くたっている。そこは薄暗い石造りの狭い部屋で、ほとんど牢に近い雰囲気だった。窓もない。松明の炎がパチパチと音を立てた。
「ど、どうしたんですか、皆さん。顔が一様に恐いですよ〜。」
 シャーは、愛想笑いを浮かべて彼らに声をかけてみるが、返答するものはいない。
「や、やだなあ。オレ。あんまり重い空気好きじゃないのに〜。」
「ふざけてる場合じゃないわよ!」
 ラティーナが、シャーを睨んで黙らせる。
「…あたし達は捕まったの。」
「誰に?」
「…あたしが知るわけないでしょ。」
 ラティーナは、後ろめたさも手伝って、つんと顔を背けた。
「…ほんと、役に立たない用心棒なんだから。」
「ご、ごめんなさい。」
 シャーは痛いところを突かれて、しょげた。
「…でもねえ、頭をいきなりどつかれたら、普通ダメだと思うんだよ、ねえ。」
 何とか、ラティーナの機嫌を直そうとしているらしく、あたふたとシャーは言い訳をし始める。
「オレだって、ちょっと粘ったつもりなのよ。でも、ほら…」
「その割りには随分あっさり気絶したわよね。」
「うっ…」
 シャーは更に詰まって、ラティーナをそうっと見上げた。結局見事にやられたのだが、一時はわざとやられようとしていた。シャーとしても、後ろめたい所があるのである。
「ご、ごめんなさい。」
 シャーは、素直に謝った。
「もう遅いわよ。」
 ラティーナが言った時、ぎぎぎ…と何か重くきしむ音が聞こえ、正面のドアが開いた。
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