辺境遊戯

□第五章:伝説と伝承
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 『カルヴァネスに伝わる古文書はこう伝える。
 太古の昔、辺境の狼人が町を襲った。人々は、鉄と青銅の武器を右手に、左手に火のついた松明を持ち、彼らと戦った。都市は壊滅し、血の大河が流れた。日は落ち、やがて夕方になり夜が訪れた。あくる日、そこを旅人が通りかかった。そこでは、人々が倒れ、その上に折り重なるように狼人が倒れていたという。息のあるものはいなかった。その後、その都市は、砂漠に消えた。

 以来、カルヴァネスでは、狼人は災厄を運ぶものとして恐れられているという話である。』


「あぁぁ〜〜〜!」
 レックハルドが凄まじい声をあげたので、ファルケンは思わず驚いてひっくり返りかけた。彼の視線の向こうには、照れてデレデレになりながら、女性と話す騎士の姿がある。辺境近くの野原まで、マリスは今日、やってくることになっていた。ようやく、この前の傷がいえたレックハルドだが、さすがにあの恐ろしい目にあったマリスの屋敷には近づけないので、そっとファルケンにどこかでマリスと会えないか訊いてきてもらったのだった。ファルケンのような格好のものが屋敷に通してもらえるとは思えない。おそらく、屋敷にそっと忍び込んでマリスにあってきたのだろう彼がマリスから直接聞いてきたというのが「明日、野原にでかけますからそこで会いましょう。」というものであった。喜び勇んで出てきたのに、まさか邪魔も邪魔な男が先にきているとは。
「…オ、オレが、顔が元まで回復されるまで待っているうちに、あいつがマリスさんと〜〜〜!!」
 持ってきたプレゼントも全部落として、レックハルドは、許せん!とばかりに駆け出す。プレゼントを落とすと悪いだろうと思ったファルケンは、滑り込みでそれを受け止めたが、おかげですっかりレックハルドには置いていかれてしまった。あ、待って!と声をかけたところで、マリス最優先のレックハルドが止まるはずもなかった。
「あ、こんにちわ。レックハルドさん。来てくださったんですね。」
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