短編いろいろ

□Spring 1932
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  Spring 1932


 三等車は、そこそこに混んでいた。いっそのこと、二等車両にすればよかったかと思ったが、たまたま持ち合わせも少ないし、それにあまり不便もないだろうと思っていたが、若干三等車の方が冷える感じがした。
 北の大地の春の訪れは恐ろしく遅いものである。それに、暦の上では春にはなっているが、二月はもっとも寒さの厳しい頃でもあるのだ。その日は、雪が降っていなかったが、車窓から見える景色は溶け残った雪で白かった。
 故郷なら、そろそろ梅の花でも咲いている頃だろうか。ふと、そんなことを思いながら、秋二は空いている席を探していた。
 店のある上海は、今はきな臭い雰囲気が漂っている。それもあったし、仕事でどうしても東北部にいく予定があった。これからは旅順の方に行く予定があったので、ここから汽車に乗ることにしていたのである。
 このような時勢である。商売一つやるにしても、危険が伴うものだ。
 彼は、座席を探してそのまま歩いていた。汽笛がぼーっと音を立てて鳴り、窓をびりびりと揺らす。がたん、と足元がゆれ始め、そのまま汽車が進み始めたことを知る。揺られながら座席を探していると、ふと、一人の男が目に留まった。
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