clapping monkey
□お題拍手小説
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【塞いだ耳で聞いたのは】
うんざりした。
この広い空にも、騒々しい地上にも、そして何よりどこに立っているのかすら分からない哀れな自分にも。
ヘッドホンで完全に塞いだ耳は、風も空気も色も受けなくなって、一体どうしただろう、何も見えない。広いこの空の色が見えない。騒がしいこの地上の声が聞こえない。自分の心が沈黙している。
馬鹿らしい、あまりに。
脱出する術は自分の奥底から湧き出るなんていうのは弱々しい戯言で、自分自らが掴み上げなければ勝手に上がってなど来ない勇気。知ってたよ。
怖いから掴むなんて出来ない自分にも、怖くなった。そんな奴には目先だろうがずっと遠くだろうが、同じことだと知ってたんだ、それならいっそのこと掴む腕が無いからと言い訳出来たら良かったのに。
「…ったく、こんなもん着けてなーにやってんだよ」
耳からずるりと引っ張り剥がされたヘッドホン、ざわっと全ての音がしてすぐに私は耳を塞いだ。引っ張られた上を見上げて。
その時は何も聞こえなかったけれど、すぐにドンドンという振動が聞こえた、赤い衣の上に当てた頬に伝わった規則的な音は、確かに私に聞こえたんだ。
塞いだ耳で聞こえたのは、君の命の音だったよ。
(私の音も、君に聞こえたかな)