cheerful canary

□逆照る照る坊主
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それは鳴り止まない歌。虫達が奏でる歌。それが始まる頃には季節が変わり始めることを知っている。

上には光。雲の隙間から垣間見れるのは、光の岩でも砕いたような小さな瞬き。本当はあれらは、ガスの塊が燃えてるんだ、って教えてやりたいんだけれど。


睫毛の下に溜まった水。頭の中の着火なんて、とうの昔に始まってた。誰かが金槌片手に、自分の頭を殴る錯覚だって同じ頃にやってきてた。

――あぁ、くらくらする。

やっぱりさっきのはちょっと嘘。私の上にあるのは瞬く小さな光なんかじゃなく、螺旋を描く天井だった。

熱に浮かされた体は、どうも言うことを聞いてくれない。変わりにくれるのは、独りぼっちでこれに耐えてるっていう、強い強い寂しさだけ。

寂しくて、寂しくて、――怖い。



「…よう。具合はどうだよ」


声に、弱々しく掬んでいた目と拳が反応する。孤独の平野に突然流れ込んだ、小川。

自然と口元が緩む。ただ嬉しくて、彼を必死に追おうとする、目。


自分の枕元まで足を運んで、どっかりと胡座をかいた赤い衣に顔を覗き込まれた。なんだかくすぐったくて、目の前にある幕をせわしなく降ろす。


「熱は……まだあるじゃねぇか」

黙っていたら、自分の額にひんやりとした彼の大きな手が置かれて。気持ちがよくて思わず目を閉じていた。
…なんだかそれがすごく幸せだった。

「…………」

駆け抜ける沈黙まで、愛しい。一人の寂しさに触れてくれたこの人が、こんなにも優しいなんて。
この手がいつまでも離れなければいいと思った。


「…じゃあもっかい寝てろ。早く治せよ」


そう言って立ち上がろうとした彼に、自分の中の血が沸き立った気がした。また一人になるのかという思いに急に焦り出した自分が、なんとも弱っちく感じる。でも…この心許無さはどうしようもないから…。


「犬…夜叉、……側に…いて‥」

音を立てて痛みだす頭に耐えながら、掠れた喉から言葉を絞りだす。

風邪っていうものは、ここまで人を孤独に出来る力があるのか。そしてその孤独に耐え兼ねる自分。




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