長編学園モノガタリ

□願い
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竜王とも、あるいは単に竜ともいう。竜はもともと想像上の動物であるが、神格化されて信仰されてきた。水中や地中に住み、ときには空中を飛んで稲妻を放ち、雨を降らせるという。わが国の竜神信仰は、古来からの水神信仰に中国から伝わった竜信仰が習合して構成されたといえる。たとえば雨乞(ご)いの儀礼をみると、淵(ふち)や池沼に汚物や牛馬の心臓などを投げ入れるという風習がある。これは淵に住む竜神を怒らせて雨を降らせるのだと伝えている。淵や池沼にはもともと水神がいて、それは大蛇の姿をとるものと考えられてきた。それが竜神に変化している。竜巻のときに竜神が天に昇ると伝えられている。これは竜神が雷神信仰と結び付いたものであろう。

一方、竜神信仰は海神信仰とも関連が深い。漁民の間では竜神祭あるいは竜宮祭と称して、その日は沖止めをするという習わしがある。海を荒らしたおわびだという。竜神は金物が嫌いだから、海に刃物などを落とすのを漁業関係者は厳しく戒めている。これなどは、鉄を嫌う蛇信仰がその根底にあるのを教えてくれる。神話の豊玉姫(とよたまひめ)は海神の娘で、山幸彦(やまさちひこ)と結ばれ御子(みこ)を産むときに、大鰐(おおわに)の本性を現した。『日本書紀』ではそれを竜の姿と伝えている。竜神信仰との接触によるものであろう。伝説や昔話では、竜神は人間に富を与える存在としてある。「竜宮淵」の伝説では、その淵が竜宮に通じており、そこに膳(ぜん)や椀(わん)を貸してくれるように願うと、翌日には竜神が用意してくれるという。また昔話の「竜宮童子」「竜宮女房」なども、竜神の意にかなった者が富を得て幸福に暮らすという内容である。「黄金の斧(おの)」もそうした系統の話である。竜神のいる竜宮は豊かな宝の国である。
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