□罠にかかったのは
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今日もこの時間にやってきてこの薄紅を摘むあんたの姿を見つけた時の俺の気持ちといったら、





「ねぇ」




「ねぇー」



「ねぇ、」



「この薔薇、食べるよ」

「あーもううるさいんですけど。変な冗談やめて下さい」






やっとこっち、向いた





「だってそっちが俺のこと無視するのが、悪い」




彼女は今日、薔薇を摘みきたんだ。1年前以上から大切に育てきた彼女の大切な薔薇を、その白く細い手で






「その薔薇、どうするの」






知ってる
ある1人の男へのプレゼント。






「あなたには関係ないです」





目も合わせずに冷たく投げ出された短い言葉。


そして俺の存在なんか無視して
たくさんの薔薇の中から薄紅を真剣な眼差しで選び、その薔薇の、それはもう香りはすばらしく






「その男ってあんたのなんなの」

「だから、関係ないですよ。あなたには」







でも俺があんたのこと、知らない訳がない。
その男のことも、その男があんたにとってどんな存在かも





全部

知ってるけど






って言っても全部一条さん情報。
いやでも彼の口からでてくるあんたの名前。ちょうど、あんたがこの薔薇を育て始めたころから







「その男、人間?」

「人間以外の何があるんですか。」






やっぱりまだ言ってないんだ。きっと一条さんのことだから言わないで通すんだろうけど




だって

黙ってれば分かる訳がないんだ









「かーわいそ」








あんたの愛しい人が、吸血鬼だなんて。あんたのその血が欲しくて欲しくてたまらない、



化け物だなんて






あんたは分かる訳ない












「では、」




そう言って足早に立ち去る後姿と薔薇の、残り香

今日も目を合わしてくれなかった
それどころかこっちを向いてもくれなかった。











でも

それも今日で終わりにしよう












「え…」






人間技とは思えない速さで、音もなくこの香りにのって静かに、そして唐突にあんたの前に立ちはだかって








そっとキスをした









いつもは顔色1つ変えないあんたの顔はみるみるこの薔薇のように薄紅に染まっていき
彼女の腕からゆっくりと薄紅の薔薇が落ちていく

そして大きく見開かれた瞳は
今まさに俺しか映っていないんだ、





驚いた?







「信じ、られない」



動揺している口調で俺から目を離さない


捕まえた







「あんたが、悪いんだよ」







この瞬間、落ちたも同然。
もう逃がさない








俺しか見れないように

してあげる







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