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□ラビリンス
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歌が聞こえる。
森の奥から、まるで僕を呼ぶように。
そうなんだ、あの声は僕を呼んでいる。いつも同じメロディー、聞いたことのない美しく悲しいメロディー。
僕は森を見つめる。緑色ではないんだ。青くて灰色の森を、見つめる。
生き物はいるのだろうか。僕は目をこらして見つめる。じっと見つめてたら、森が動き出しそうだ。
ほら、あの木の枝を見てごらんよ、まるで人間の腕のようだ。腕は僕を手招きする。ひゅうひゅうと風が吹く。葉が、枝が揺れる。森はざわめく、ほらそこの君はやくこっちにおいで、と。
風が冷たいせいだろうか。僕はぶるりと身震いをした。目の前の森はまるで生きているようにも思える。
そんな青くて灰色の森の奥から一つのメロディーが流れてくる。
歌が聞こえる。
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