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□風呂上がりの落とし穴
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「暁ー!もしくは英ー!いるー?」
…返事なし。えぇーいんなこた知るか、入っちゃえ!あたしは早く課題の答え見してもらって、写さなきゃなんだ。
「ねー、暁ー?」
英の答えは細かすぎるから、写したと疑われる。というか以前バレた。まったく先生も、どんだけあたしのこと信用してないのってはなし。おまけに英から借りたら借りたで、奴は課題をやらないあたしに説教。
まぁ、暁のが適度なんだ。暁は基本ゆるい性格な上、お人よし。ありえない位にお人よし。頼みごとは断れない、そうゆう性質。なんでここ数ヶ月、そこを大いに利用させてもらっているって訳。
「あっれー暁ー?」
ぼすっとベッドの布団にパンチを入れてみる。やっぱりいない。かれこれ部屋に入ってきて5分。
トイレ?長くね?
そのまま部屋にあるトイレに向かおうとしたら、見慣れたオレンジ頭がひょいと洗面所のドアから現われた。
そう、見慣れたオレンジ頭が、
「あ、れ、暁?」
「よっ。わりぃな、風呂入ってた。課題だろ?」
オレンジ頭が、というか
「なんだ?ぼーっとして」
「…毛」
「んあ?」
んあ?ってあんた、んあ?って…、まるでカモみたいな鳴き声しちゃって、そんな髪でカモって…
「な、なんか、似合うね」
「おい、主語がないぞ主語が。えーっと、ほらこれだろ?」
そうだ、課題だ。えらいぞ暁、課題ちゃんとやってある。とりあえず、この状況はやばい。非常に、やばい。今すぐ部屋から出よう。とにかく、今すぐ部屋から出よう。
「あ、ありがとう、じゃっ」
走れわたし、今すぐ部屋から出なきゃ。ほら、ドア開けて廊下にでて!なにさっきの暁、見てらんない!
「ぶふぇっ!」
「え?」
「いったいなぁ!前見て歩けよ!」
「あ、あぁー英か、ごめんごめん、そこ、どいて」
なんてこと。あれは落とし穴だ。何の?誰の?決まってる、あの、髪の毛、ストレート!はやくこの部屋から出なきゃなのに、このあほ英、はやくどけ!
「ったくなんだあいつ、顔真赤にして急いで出てってさ。暁、お前なんかしたのか?」
「課題かしただけだ」
「ふーん。あー、もしかして」
「なんだ、まじまじと見て」
「上に何も着てなかったのがいけないんじゃないか?」
「…あいつそんなうぶか?」
「うーん、やっぱ違うか」
「風邪でもひいたんじゃねぇか?最近流行ってるし」
なんてこと。あれは風呂上がりの落とし穴だ。いつもはあんな課題貸すしか取り得のない、お人よしのせいでずぅっと瑠佳に片思いの、あのオレンジ頭の髪の毛が、風呂上がりだからって、濡れてるからって、ストレートで、で、で…?
「暁、昨日は課題ありがとう」
「あぁ、そこの机の上に置いといてくれ。てかおまえ、昨日風邪でもひいたのか?」
「は、なんで」
「いや、違うならいいんだ。」
「あ、そう。あーあのさ、暁」
「うん?」
「あーっと、えーっと、その、ですねー」
「どうした?」
髪の毛、ストレートだと、かっこよく見えるよ
「なーんでもない」
「そうか」
「あ、ちなみにあんたのその答え、間違ってると思うよ」
「どこ?」
「だってほら、これがさ…」
あれ、おかしい。おかしいぞあたし。だってこれは、暁で、課題貸すしか取り得のない、お人よしのせいでずぅっと瑠佳に片思いの、あのオレンジ頭の暁なんだ。おまけに今の髪の毛はツンツン。おかしい、おかしいおかしい。
「あぁ〜なるほどな。おまえ、やればできんじゃん」
「ふ、ふーん、まぁね」
「まっ、教えてくれてさんきゅーな。今度は自分でやれるよな」
「え、やだ。」
「おいおい」
「ねぇー貸してくれるでしょ、お人よし?」
なんてこと、ストレートの落とし穴でも風呂上りの落とし穴でもなんでもない。
あたしがはまったのは、意外に深いふかい落とし穴。
「仕方ねぇーな、今度も、これからも、貸してやるよ」
あたしは彼の深い優しさにまんまとはまってしまった訳だ