さよなら僕らと、それと君に
□シーツで仲直り
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平八郎が走ってきた。しかもすごいスピードで。
「ユリィ?」
アイが拾ったこの白い犬は僕の彼の呼び名である、ユリィには満足しているらしく、名前を呼ぶとちらりと僕を見た。
その後ろから目をギラギラと光らせたアイが、謎の物体を持って、猛スピードでやって来た。
「へーはちろーちゃーん……」
「……」
「さーあ大人しくしなさーい」
「……ワン!」
今のワンが拒否の意であろうことは、僕にも分かる。
平八郎はすかさず僕の後ろに隠れて震えていた。
その様子があまりにも可哀相だったので、庇ってやることにする。
「リーン、そこどいてー」
「やっとベッドから下りたと思ったら、何をしているんですか。それに、その変な物体は何です?」
「何って、平八郎の服よ」
「服!?」
どの角度から見ても服には見えない。こんな変な形と色の服なんて誰も着たくないだろう。
だが、良く見てみると確かに見覚えがあった。
「それ、貴女がさっき破ったシーツじゃないですか!」
「リンだって共犯でしょ。まあ、それはいいとして、破れちゃったんだから再利用しないと勿体ないじゃない」
再利用しないと勿体ない、の言葉には同意するが、これでは再利用どころか廃棄物の増産だ。
それに、
「その毒々しい赤、一体何で染め……」
「ハバネロティーよ」
「しつこい!」
思わずつっこんでしまった。と言うより、まだあんなものが残っていることに恐怖を感じる。
あれはお茶じゃない、むしろ兵器だ。
「だって誰も飲まないから」
「当たり前です!」
「平八郎に飲まそうとしたら三日間くらい私から逃げ回ってたし」
当たり前だ。もう口を開くのも怠い。執事がこういうことを言うのはどうかと思うが、もう何もしたくない。
でも平八郎は守ってやらないといけないので、アイから、元シーツを取り上げた。
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