さよなら僕らと、それと君に
□メイド辞職宣言
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洋風のお屋敷の前には広大な庭が広がっている。
ご主人様の命令で植えられた桜の木は立派に成長し、もうすぐ花を咲かせようとしていた。
空は青く、透き通るような空気が僕の髪を撫でる。
お屋敷内から盛大に皿の割れる音がした。
メイド辞職宣言
音のした場所へ向かってみると、そこには大量の割れた皿に囲まれて悪態をつくメイドの姿があった。
「メイド辞める!もう辞めるー!」
メイドの名前はアイ。
名前の由来は知らないが、特徴的なのは彼女の目の色だ。
薄いピンクのまるで桜のような色をしている。
「聞き飽きましたよ、その台詞は」
「出て行くー!荷物まとめてハイヤー呼びつけて、実家に電話して泣いてやるー!!」
そこまで具体的な計画があるのなら、さっさと出ていけばいい。
実行に移したことのない人間に限って計画(妄想)だけは用意周到なのだから、困ったものだ。
「荷物をまとめるくらいなら僕が手伝って差し上げますけど。退職金も出してあげます」
「リンの冷酷野郎」
リンと言うのは僕の名前。
ご主人様が付けて下さった名前なのだが、アイと同じく由来は知らない。
「出て行く気がないのならさっさとこの殺人現場みたいなのを片付けて」
「手伝ってよ」
「嫌です」
振り向きもせずに答えると、後ろから、執事の癖にぃ!という罵倒とも取れぬ罵倒が聞こえた。
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