05/07の日記
21:43
見付けたのは、(半兵衛)
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髪を切りたいと言った彼に、そのままにして欲しいと頼んだ。自分の髪が嫌いなんだと彼は言った。何で嫌いなのか分からなかった。私は、好きなのに。
「きれーなんだから、勿体ないよ」
「僕はそう思ったことが一度もないからね」
「変なの」
「変なのは君だよ」
呆れたように顔を背けて、彼は何処かをじっと見つめていた。
私も同じ方向に目をやるけれど、彼が見ているものは見られないのだと思う。彼は頭が良すぎて、考えていることが私には理解出来ないことばかりだ。
「僕が自分のことを好きなように見えるかい?」
「とっても」
「……だから君は馬鹿なんだ」
そう言って、彼は人差し指で私の頭をつんと突いた。笑うと、彼は少し怒ったように息を吐き出す。
「君は、」
「私は自分のこと嫌いよ」
「……どうして」
「僕のことが分かったんだい?って?」
すごく驚いた顔をした彼が妙に彼らしくて、私の方が驚いた。いつも隠している表情や、柔らかい雰囲気が、不意に漏れ出す瞬間がある。
それが嬉しいとか、そんなことを思える程、彼は自分を見せてはくれない。
「ねえ、なんであなたは自分のことが嫌いなの?」
「僕が僕だから」
「難しい」
「この目も、この姿も、考え方も僕は全て嫌いなんだよ。嫌悪に近いかもしれない。自分から逃げ出そうとして、もがく自分自身はもっと嫌いだけれど」
「……もがくのは、悪いことじゃないわ」
私は絶対にもがかない。変わる為の努力より、現状維持を望んでいる。そんな自分が嫌いだった。
だから、努力をし続けている彼が好きだった。
「大丈夫。あなたは正常する」
「……成長の間違いかな」
「そう、そっち」
良かった。笑ってくれた。
「私は、あなたが好き」
私はあなたのことを理解することは出来ない。悩みを解決してあげることも出来ない。同じものを見ることさえ出来ない。
あなたが考えていることはいつだって難しい。
でも、それでも、隣にいたかった。
「あなたの目も、姿も、考え方も全部好き。分からないけど、絶対に全部好きだと思う」
「……」
沈黙。しかも、かなり長い間。
彼の手が私の髪を掠める。彼が私を抱きしめてくれたことはない。頭を撫でてくれたことさえ、一度もなかった。
それはきっと、おんなとしては見てくれていない証拠。
「私は、正常でないの」
そう言うと、彼は冷たい目で私を見た。嫌われたかもしれないと思って、悲しかった。
不意に触れた腕に、身を固くした。薄い胸板に頬が当たる。
「君といると多少は気分が楽になる」
「え?」
「ここにいて、それと、笑っていて欲しい。君が沈んだ顔をしていると調子が出ないからね」
折れてしまいそうなくらいに細い癖に、彼には頼りがいがあった。
笑って欲しいと言われたのに、何故か涙が出て来る。嬉しいときは、自然と笑うものじゃなかったのか。嬉しくて泣くことなんて、今までなかったのに。
「ご、……ごめんなさいっ……」
「謝る必要なんてないだろう?」
「でも、その……ごめんなさ、」
余計に辛くなる。慰められると、益々泣いてしまう。どうにかして無理矢理に笑ったら、ぐちゃぐちゃの顔になった。
「その方が君らしい」
それでも、彼がそう言ってくれて、いよいよ声が抑え切れなくなる。
彼にしがみついて泣いていると、彼は、小さく笑った。
揺らいでいた影を見付けたのは、私ではなく彼だった
(変わらない自分を、ようやく好きになれる気がした)
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多分疲れてるんだろうな自分……。
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