Three People Travel
□第一話
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ここはローレスト王国。小さな国だが、平和で誰もがのどかに暮らしている。
そんな中、
「はっ、はっはぁ、はぁ………」
荒い息遣いと、タッタッタと軽快な足音が、入り組んだ路地に鳴り響く。
薄暗いところから、人通りの多い所まで、その人は駆けていた。
「今日は勝てるかな?」
小さく一人事を漏らし、それでも尚走り続ける。
ただひたすら、あるところを目指して。
「見えた!城壁だ。今日は僕の勝ちだ!」
城壁を目指して走り続けていた少年は、まだあどけなさの残る顔立ちをしていて、せいぜい10代前半。
小柄で、髪は混じりっ気のない金色。瞳は海を彷彿とさせる深いブルー。
走り続けたせいで、汗の跡が服についている。それでも尚走り続けていると、どこからか、チリン、チリンという音が聞こえた。
「げっもう追いついたのか、あんなにハンデをつけたのに。」
その音を聞いた瞬間から、少年の走るスピードは一層速くなり、城壁までのわずかな道のりにラストスパートをかけている。
チリン、チリン、チリン
どんどんその音が近づいて来るのが分かる。
城門はすぐそこなのに、音がそれ以上の早さで近づいてくる。
門兵には、話を通してあるので、止められる事はないだろうが、やっと見えた門兵の顔には、苦笑が見える。
もう、どうなるか予想はついているけれど、あきらめたくない一心で走り続ける。
門兵が見守る中、城門に手をつけようとしたその時、おなかの辺りに、走っていた方向とは逆方向に力が働いた。
「捕まえましたよ。今日も俺の勝ちですね。」
チリンと音がして、上を見上げれば、見慣れた顔が予想通りの笑顔を見せていた……汗一つかかず。
「ちぇ、いつもそうだけど、なんでギリギリで捕まえるの?」
「ギリギリまで走ってもらわないと、体力がつかないでしょう?」
「そんな気遣いはいらない…」
「まあまあ、せっかくここまで走ったんだし、少しだけですけど、国の外に出てみませんか、アズウェルド様。」
「その呼び方やめて、シン。」
「はい。アズ様。」
(そっちじゃなくて、様の方だったんだけどな)
そんな思いをシンは知ってか知らずか様付けしかしない。これまでの人生で一番長く一緒に居る人間だというのに。
シンは、アズが生まれた時に雇った使用人らしく、雇われてすぐにアズの付き人兼護衛人兼話相手などなど、早い話がなんでも係りである。
シンは、背が高く、つり目なので、怖そうな印象を与えそうだが、常に微笑みを讃えているので、恐ろしいという印象を受ける人はまず居ないだろう。
だが、この国には珍しい、黒髪、赤目。服も特注で作っているのか、誰も着ないような服を着ていた。
ちなみに、先ほどの音は、長い黒髪を紐で結んでいるのだが、昔、アズが鈴をプレゼントした時から、その紐に付け、肌身離さず付けているので、シンが動くたびにチリン、チリンという音がするのである。
「外にはヴァルナも来ているらしいですよ。」
「ヴァルが?ホントに!?早く行こう!」
城門の外に出ると、長い茶髪の人の後姿が見えた。
「ヴァル!」
「アズ。元気だったか?」
ヴァルと呼ばれたその人は、この国で一般的な茶髪茶目。目立つ事は、ボサッとした長い髪を結ぼうとせずにしているところだろうか。
笑っていれば優しい印象を受けそうだが、生憎、彼は稀にみる仏教面だった。
だが、アズは気にせず続ける。表情があまり変わらないだけで、ちゃんと見れば、感情の変化が分かるのである。
「うん!シンと一緒に体力づくりをしてたよ!」
「未来の王になるには、体力も必要だからな。」
今更だが、アズウェルドは、この国の第3王子なのだ。しかし、様々な分野の総合能力で王を決める国なので、王子達は、たくさんの事を学ばなくてはならない。
先ほどのような体力づくりや社交マナーなどはシンが教え、帝王学なんかはヴァルナが教えている。
そして、表立った護衛はシンがしているが、影で護衛をしているのがヴァルナなのだ。アズウェルドは二重の護衛によって守られているので、城壁の外という危険なところに出られるのは稀なのだ。
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