捧げ物
□不器用な思い
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「あれ?」
両腕に兄へ届ける書類をもち、廊下を歩いていたリナリーはふと通りすぎに見た光景に首を傾げ、確かめるために数歩ほど戻って、開け放たれた室内を覗き込んだ。
「アレン君?」
「あ、リナリー」
アレンは読んでいた本から視線を上げ、リナリーを見ると、椅子から身を起こし、自然な動作でさらりと少女の手にある資料を己の腕へと納めた。
「アレン君?これくらい平気だよ?」
「ちょうど体動かしたかったんです」
「…ありがとう」
アレンの優しさをわざわざ断る理由もなく甘えさせてもらう。
しばらく他愛もない話をしながらリナリーはふと先ほど感じた違和感を思い出した。
「ねぇ、アレン君」
「なんですか?」
「今日は神田は一緒じゃないの?」
「…えぇ?そんなに一緒にいませんよ〜」
やだなぁ、と何事もないかのようにアレンは笑ったが、リナリーは一瞬だがアレンの肩が跳ねたのを見逃さなかった。
「嘘。……喧嘩でもしたの?だって…任務から帰って来てから神田とアレン君ずっと一緒にいたじゃない」
「………」
微妙な沈黙。
リナリーはつい最近までの二人を思い出した。
二人が付き合いだしてからもうすぐ半年、時には派手な喧嘩をするとはいえ、任務のない日などは常に二人で一緒に行動している姿をよく目にしていたのだ。
そして今は二人が任務から帰ってきて4日目の午後。
いつも傍にいる神田の姿が見えなければ疑問が湧き出るのも当然のこと。
「神田が何かしたの?」
まったく、神田ったら素直じゃないんだから!と怒り始めたリナリーに慌てて首をふった。
不思議そうに邪気のない瞳で見つめられアレンは気付かれないように心の中で諦めの溜息をつく。
「…喧嘩、とかじゃないから、本当に大丈夫」
このままだと根負けしてしまいそうな気がして、ごまかす笑みを浮かべた。
リナリーはその笑顔をしばし見た後、アレンから視線を外し、そっかー、と笑って教団のたわいない話をし始めた。
思うことはあっても自分が踏み込むことじゃないと思えばリナリーは踏み込まない。
その優しさに甘えながらアレンは表面では返事を返しつつも、心の中でふと黒髪の彼を思い出す。