捧げ物

□願いの先は…
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「何なんだあいつらは!」

苛立ちそのままに床を蹴りながら神田は教団内を歩む。

あの森での一件以来、次は金と銅の二人が示し合わせたように交互にちょっかいをだしてくるようになった。

たった一日、されど一日。

他人に自分のペースを乱されるのを嫌う神田の苛立ちは既に限界を迎えようとしていた。

何より

「神田はアレンの事嫌いですか?」

と、金アレンは本体と同じような丁寧な口調で話し掛けてくるのものだから、既視感が強く余計に。

銅アレンをあしらっていると、たまに言われる言葉は、一体どちらの事を指すのか、と問い掛けたくなる程。そんな風に感じるのは自分の心に引っ掛かるものがあるという、ある意味自意識過剰なのだろうか。


「…嫌い、だ」

逡巡した後、真っ直ぐ見据えてくる金の瞳を見つめ返し言い放った。
瞳の色がそれぞれ違って良かった、と思った。皆が銀灰の瞳であったなら違うとわかっていてもその瞳をみては言えなかったであろう。

「全く…、貴方もアレンも…」

金アレンに傷ついた色はなく、本当に呆れた、と言ったように溜息を吐いた。

「俺とモヤシがなんだ?」
「本当にに意地っ張り同士だなって思ったんです」
「別に思ったことを言ってるだけだ」
「気づかないふりをしてごまかすために?」
「…何が言いたい?」
「気を悪くさせてしまったなら謝ります。他意はないんです」

どうみてもあるだろう、とは思ったが薮蛇になる気がして神田は反論を止めた。

「二人とも素直になればもっと楽なのに、と思ったんです」
「てめぇの言うことは意味がわからねぇ」
「本当に?」

「……たとえ、素直になったとしてどうしようもないだろう?」
「え?」
「俺達は明日とは知れない身、傷を一時舐めあったとこで何が変わる?」
「君は…」

わかった上で偽り続けるのか、と続く言葉は、一瞬浮かんだ神田のほの昏い瞳に行き場をなくした。

「……明日とはしれない身、だからこそ、帰ってきたいと思える人がいることに僕は幸せを感じます。そして貴方達は傷を舐めあう関係だけではない、…二人の関係を勝手に決め付けて誤魔化さないで…」

彼の瞳に浮かんだ昏さに言葉を詰まらせながら、自分が言える言葉を紡ぎだした。
彼もアレンと同じ深い深い闇を持っていて、幸せになることを望むことをしない。
否、知らない。

胸に小さな痛みが走った。
この青年に安らぎを与えられる人がアレンであればいい、と思った。

金アレンの言葉に、神田は視線を落とし考え出した。


「かーんだっ!」

その場を一変させる明るい声とともに現れたのは銅アレン。
ぎゅう、と突っ立ったまま考えていた神田に抱き着き神田を覗き込む。

「あれ?」

何時もなら有無を言わさず剥がされるはずの手が伸びて来ないことに不思議に思い、首を傾げて見上げると、何時もにもなく深い色を湛えながら自分を見つめる黒耀石があった。

「どうしたの?」
「いや……」

少しだけそのままでいたあと、何時ものようにべりっと剥がし銅アレンを金アレンに押し付けようとしたら、金アレンはいつの間にか姿を消していた。

神田は結局銅アレンを本物に届けるため嫌がる銅アレンをひきづり本体を探し出した。

さっきの出来事を思い出すと少し億劫だったが銅アレンに常にいられるよりは、と己に言い聞かせて。



「また君は神田のとこに行ってたんですか!?」
「だって神田といたいんだもん」
「もんって…あぁ、すいません神田」

猫の子のように差し出した銅アレンを見るなりアレンは慌てて神田から受け取る。

「また迷惑かけました?」

申し訳なさそうにアレンは神田を見上げた。

「いや…」
「?」

いつになくどこか言い淀んだ神田にアレンは不思議そうに首を傾げた。

澄んだ銀灰に見つめられると、どこか落ち着かない。

俺も大概毒されたな、と神田は内心で諦めたように苦笑した。

やはり、同じ顔、声であろうとざわめくのはこの少年だけ。
金アレンの言葉を思い出しつつ、神田は己の心中に浮かぶ答えに向き合おうと決めた。






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