宝物

□大切と必要の相違
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「ユウってさ、ああ見えて独占欲強いんじゃね?」



昼には少しばかり遅く、人も疎らな食堂。向かい側に座るラビの問いは急いで返答を要するものでもなく、今噛み砕いているハンバーグをゴクンと飲み込んでから口を開いた。



「何ですか。いきなり」
「や、そのまんまの意味。アレン大変なんじゃねぇかなと思ってさ」



既に食べ終えた彼がここにいる理由は本来ない。ラビが僕の食事が終わるまで付き合ってくれるのはいつもの事だけど(頼んではいないけど)今日はからかうのが目的か…と呆れに近い感情が浮かんだ頃、彼はキシシ、と、実に楽し気な笑みを浮かべていた。



「…まぁ、大変と言えば大変なんですけど…」






「オイ」
地を這うような声色。それが誰のものか何て、姿を見るまでもなく分かる。
「神田」「ユウ」


名前を呼び、二人同時に振り返ると、そこには不機嫌そうな顔(これもいつもの事か)神田はファーストネームで呼んだラビを一瞥すると、まだ食事途中の僕の腕を掴んで立ち上がらせた。…その力は決して、あらがえないものではないけれど、この手が彼のものである以上拒む理由は無いのだ。少なくとも、僕の中では。



「…来い」
「ちょっ、神田!」








「ユウってば大胆〜」



オーダーしてから数十分。未だテーブルを彩っているご馳走に後ろ髪を惹かれながらユウに引っ張られていくアレンに、哀れみと激励の意味を籠めヒュウッと口笛を吹き見送った。…正確には見送ろうと、した。



(…あれ…?)



てっきり、困ったような表情をしているだろうと思ったアレンは、こちらを見てニッと笑ったかと思うと紅く小さな舌を出し壁の向こう側に消えた。それはさしずめ人を馬鹿にしたような、悪戯が成功した子供のような…


(もしかして…)



「読み外した…?」



留めていたけど、最後の一言だけは口に出ていたようだ。そして答える者がいない問い掛けは、無意味な独り言となって、消えた。




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