□お手を取って
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空は、カラッと晴れて
生暖かい風が辺りを抜ける

そんな中、佐助は弁丸の
部屋の前で立ち往生していた



「…ぐっ、ひっく」


(またか…)


それもまた、弁丸様が泣いているから、
武家に生まれ、何故あんなに
優しい人が居るのか解らない


何時も周りの人を気遣い、ビクビクしている
普通は立場的に真逆でしょ…



「ひっ、ぅ…」


そんな事を、思っていると
反対から誰かが来る音がした


中に入ろう、と思ったが足が動かなかった
歩いて此方に向かって来るのは、
離れに住む奥方様だったからだ


俺に気付くと、ゾクッ、とする、
気持ち悪い程殺気を発たせて歩いてくる


「どうなされましたか?」


頭を下げると、中の弁丸様の鳴き声が
ピタリ、と止まり緊迫した空気が流れた



「おや、忍び…あの子は此処に今居るのかい?」


楽しいそうに、歪んだ顔で
俺を見てきて正直吐き気がした



また、弁丸様でも殴って遊ぶのかこの人は…
まだ幼子だが、俺の主
こんな婆に触られたくは無い


「嫌、捜して下ります。故に居ません」


頭を深々下げると、もっと顔が
歪み苛立った顔をしていた


「なら良いわ」


つまらなさそうに、ヅカヅカ、と
来た道を歩いて奥に消えた


胸糞悪い、あの顔、あの声、
何もかもが嫌いだ。気に食わない



コトン、と後ろの襖が開く音がして振り返ってみると
小さく震え上がった弁丸様が俺を見詰めていた



「佐助ッ…何故あの様な、
この事を知ったら佐助が」


涙を溜めた目で、シッカリ、と俺を見詰めてくるが
多分、俺は弁丸様にぼやけて見えているんだろう
なんて思っていると、弁丸様は
泣くのを堪えてまた口を開けた



「佐助…殴られ、る前に」


何処かへ逃げて、と弁丸様は言うつもり
だったのか解らないけど、俺はそんな気無い


「さ、佐助?」


そのまま、抱きかかえて襖を閉めて
布団の上に降ろすと、殴られる!!、と思ったのか
体を縮こませて、頭を護るように腕で隠していた



「弁丸様…、俺は弁丸様の物です」


そう言って、優しく包み込むように
抱き締めて背中をさすってあげた


「佐助ぇっ」


小さい手で、必死に俺にしがみついて
離しはしないと力一杯抱き付く
弁丸様が可愛らしく思えた



「弁丸様、大丈夫ですよ
俺が居るじゃ無いですか」


何時もそう言うが、多分弁丸様は信じていない


まぁ、元側近の仲の良かった奴に、
奥方に金で釣られて自分を殺ろそうと
したから当たり前か…


「…同じ事」


そうぼやくと、弁丸様は俺を見詰めてきた

嫌、虚ろな目で見ている
今、弁丸様の目に居るのは、俺か奴か




「裏切るなッら殺、して欲しい」


ボロボロ、と大きな弁丸様の目から
沢山の大粒の涙が出てきた


虚ろな目で、天井を見詰めて泣いている
体に力が入らないのかグッタリ、と俺に身を委ねていた



その姿が、余りにも痛々しく胸が締め付けられた


「弁丸様」


俺の声に、ぴくり、と反応するが 反応がなかった


「弁丸様」


反応は無く、目をつぶって
現実から逃げようとしていた


それを、見て俺は心底ムカついた



「弁丸!!」


目をカッ、と開き上半身を起こし
俺を見て苦しいそうな顔で弁丸様は見る


「さ、すけ?」


「ご無礼お許し下さい、
弁丸様、貴方様が俺を信じないのは結構です」


俺のその言葉をちゃんと聞く弁丸様に溜め息をついた



「だけど、俺は死ぬまで弁丸様を信じます
忍びが己の主を信じなくて何が出来ますか」



その言葉に、弁丸様はまた、泣きながら
何度も頭を縦に振っていた



「忍びの良い所は、主を信じ、従う事です
俺は、その忍びに誇りを持っています」


「ほ、こり」


はい、と俺が微笑めば弁丸様は目を丸くしていた


「もう一つ、俺には
弁丸様と言う優しき主を誇りに思います」


そう言うと、嬉しいそうに微笑んだ
弁丸様は、とても綺麗だった


「あ、りがッとう」

「さぁ、少し散歩しましょう?」


ギュッ、と抱き締めてきた弁丸様を、
抱きかかえて外へ出た




外は、良い天気だ


お手を取って
(いつでも)(何処でも)(弁丸様の)(手を)(握り締めます)(貴方様が)(一人に)(ならないように)(一人で)(泣く)(日が)(無くなる)(ように)

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