鬼閻 艶

□天然甘味料
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接吻はあんまり好きじゃない。

原因は多分、文化と生理的なもの。
あまりチューする習慣もないし、性技については一家言持ちのお国柄に生まれて、それに類する地域で伝承されて、ってことはそこそこその素養があるはずなのに、接吻はあんまりクローズアップしたりしない。

大体口だ。
普段から人目に触れるところなんだ。おっぱいとか下の方と違って、隠すことなんかまずないようなところ。

そこを触れあわせて、重ねて、挙げ句の果てには口の中に舌を突っ込んだりするわけだ。見ようによってはぐっちゃんぐっちゃんやるより、そっちの方がよっぽど淫靡。キスだのチューだの言葉を変えれば可愛いけれど、疑似性交に変わりはない。

そう申し述べたら、キョトンとされた。
肉食の獣みたいにギラギラと獲物に食いつくみたいだった彼は、プッと吹き出した。

「口淫もへっちゃらなら、シックスナインも躊躇なし、そのくせキスが恥ずかしいってあんたねー」

ひとしきり笑って、彼はそうだ、と何やら思いついたらしい。
半分だけ乗りかかって、のしかかって、オレのウエストに腕を回してじゃれかかるみたいなそんな姿勢。二人っきりの静かな部屋には家具なんか全然ないけども、天蓋付きのこの寝台を置いても広々と見えるくらいには大きい。何せ、無駄に大きいんだ。
どんな状況を想定したら、こんなオレが六人寝れちゃうようなベッドがあるのかは知らないけれど、鬼男君が『豪華すぎて落ち着かないけど、寝台はいいですね』と言ってくれたからこのままだ。

そのでんぐり返ししたって落っこちない寝台の上、更にはオレの上に乗りかかっている彼はにっこり笑う。貴重な貴重な、見た方が得した気分になれる笑み。

「今日はキスしながらやります」

「う?」

「いっぱいキスしてやりますよ」

ちゅっと可愛い音を立てての接吻はまず口に。それから上にずり上がって、額から下へ顔全体を征服してく。
柔らかい感触は妙に動物的で、首筋に細かくキスをしていくのは何かの捕食動物と似てる。
くしゃりと掴んだ髪の質感も、獰猛で優美な肉食獣みたいだ。獅子とかでなくて狼とか豹とかそういうすばしっこそうなやつ。

鼻から抜けるみたいな声が漏れるのは、その指がぺったんこな胸まで下りてきたから。摘んでは押し潰すみたいなその単純な動作にぶわりと熱が上がってく。

そんな熱っぽい行為をしかけるくせに、気にするなと言わんがばかりにキスが降る。

最初は浅く、啄むくらい。オレのそれより大きい彼の唇は、すっぽり唇を口に含み、口寂しがるみたいにちゅっと吸っては舐める。
その舐める舌先が口の中に入り込む。
入り込んでは出、口を開けさせて、歯の一つ一つを磨くみたいに咥内を探る。

零れてくる唾液は全部受け止めて、混ざり合ったそれが口の端から零れて言って、シーツまで伝う。生々しいそれにかぶさるみたいに、胸を探られて漏れる声も流れてく。

ジワジワ溜まっていった熱を膝で柔らかく刺激されて、酸素が足らなくなってくらくらする。
許容量を超えて、体が口の解放を求めてるのに、許してなんかくれなくて、ゆっくりゆっくり口をなぞる舌は幾度も往復してやっと離れた。

「……ぁ………、君ね、オッサンを、もっと労れよ」

「イヤですよ」

髪を梳きながら、彼は笑った。というかにやけた。

「あんたのキス顔めっちゃキますもん」

「ごめん、オッサンにわかるように言って」

やっぱりゆっくりゆっくり、髪を梳く。
猫の毛づくろいみたいだ。
にやけたような、やっぱり甘ったるいような顔。珍しい。

「イってる時みたいな顔すんですもん」

「ぶっ……なんつーことを」

「大体ですねー」

もう一回キスが落ちる。ちゅっちゅっと二回音を立てて。

「動物ってキスはしないでしょ?
 こういうのって人の特権なんだから、満喫しないともったいないじゃないですか」

くすぐったいようなキスが、首筋に落ちて、鎖骨に痕をつけた。

その無防備に開けられた首筋に軽く唇を落とす。

ものは思いよう。
つまり、そういうことなんでしょう?

「なーんかラブラブくさい、年甲斐もなく」

「甘ったるいのはお好きじゃないですか」

なんて小馬鹿にしたみたいに笑うから、その口は塞いであげた。

もう何回目かわからない接吻は深く深く。きっと性交よりもいやらしく。

このまま君に細胞の一つまでトロトロに甘くなったオレを還元してあげたくなる。

それが怖いと言ったら贅沢かなあ?





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