*千歳がメガネだったり。





ばしゃり。
冷たい水に、ぼんやりしていた意識が、ふっと切り替わる。
タオルをつかんで、濡れた顔を拭った。
いつものように、目を閉じたまま左手を伸ばして。
指先に触れる冷たい洗面台の違和感に首を傾げた。

「…?」

目を開けて、視線を落とす。

何もない。

そこにあるはずのメガネがないのだ。
それが勝手に歩いて飛んでいくわけはない。
ならば、考えられる可能性はひとつしかないのだけれど。

「………くら?」
「んー?」

疑問を含んだ呼びかけに、のんびりとした声が返ってきて。
声のした方を振り返ってみれば、床にぺたりと座り込んで片手のそれをぼんやりと眺めている彼の姿があった。

「なんしとっと?」
「んー」

ガラスの縁をなぞる白い指先が綺麗で。
レンズに反射する光が、彼の髪をきらりとはじく。

「―――どう?」

ゆっくり近づいて隣に立つ。メガネをかけた視線で見上げられて。

奪われた。


「ちゅうかこのメガネ、ん、っ…!!」
「…似合っとうよ」
「〜っ、おま、っ!!」

真っ赤になって肩を震わせる彼の手をとって、指を絡ませた。
メガネでも隠せないくらい潤んだ瞳に、唇が緩む。

キスする時にちょっと邪魔かも、なんて思いながら、もう一度キスをした。





END 


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