□桜の季節
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彼が散歩に行こうと誘ってくれた。
最近少し疲れていたのでいい気分転換になるかと思った。

彼が私を連れて来たのは那智の滝。
前に何度か来たことがあったけれど、いつ来てもとても清々しく、神秘的な場所だと感じる。
けれど今日はいつも以上に綺麗だった。
滝の周りに咲き誇る桜がひらひらと舞い、静かに水に落ちる。

「綺麗……。」

思わず溜息の出るような美しさに私はただ感動していた。

「だろ?やっぱりお前をここに連れてきて良かった。」

彼はいつもの様に笑って私の隣に居る。
つかの間の休日。
戦いが続き、正直私はふさぎ込んでいた。これでいいのだろうか。今のままで本当にいいのだろうか。もっと何かしなければいけないのではないのかと毎日自問自答していた。
そんな私を見兼ねた彼が無理に今日1日休みしたのだ。

「来て良かっただろ?たまには休まないとお前の身体が持たないよ。」
「うん。いろいろ心配かけてごめんね。」
「神子姫様のことを心配するのは当たり前だろ?なんてったって俺の姫君なんだからさ。」
相変わらず恥ずかしい言葉をさらっと言う彼。でも、そんな彼が居てくれるから私は今こうしていられる。
「また一人で抱え込んで。俺にくらい話してよ。お前の為なら何でもするよ?」

ふわっと風が私の頬を撫でた。
そっと彼が私を引き寄せ抱きしめた。
「えっ!?ヒノエ君っ!?」
「お前は今のままでいいんだよ。大丈夫。」
一瞬ハッとして涙が込み上げてきた。
「そのままのお前が一番良いんだからさ。あんまり無理するなよ。お前は一人じゃないんだから。」
涙が溢れて止まらない。
「俺が居るから。いつでもお前のそばに居てお前を守るから。」
嬉しかった。ただ嬉しかった。どんなプレゼントよりも、どんな彼の笑顔よりも嬉しかった。
「ヒノエ君……。」



「愛してるよ。神子姫様。これからもずっと、お前だけをみているから。俺と一緒にいてくれ。」


(終)

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