ぴゅあ工房 vol.1
□それぞれの道
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「あれ…九郎さん?」
望美は九郎の姿が見えないので、慌てて家を飛び出した。
時空を超えて、私たちの世界に来てからまだ一週間程だと言うのに…
九郎さんたら、一人で出かけちゃうなんて!
「九郎さ〜ん!」
「なんだ騒々しい…俺ならここにいるぞ」
「え」
上の方から声が聞こえてきて、望美は空を見上げる。
屋根の上に、九郎の姿が見えた。
「気持ちが良いぞ♪お前も来るか?」
眩しい…
九郎さんの笑顔が、お日様のように眩しい。
凛々しい顔も好きだけど、笑顔が一番好き。
「そんなにノンビリしてられないんだよ〜私、学校行かなくちゃ」
「学校…そうか、学問を学ぶ所だったな…」
九郎は望美の制服姿を眺めながら、独り言みたいに呟く。
「もぉ聞いてる?まだここに慣れてないし…九郎さんすぐ無茶するし…」
「…あれは…すまなかったな」
そう、あれはおとといの事…
二人で街を歩いていた時、女のコが男に絡まれている所を目撃した所から始まった。
どうやら持っていたジュースを、かけてしまったらしい。
「冷てぇ!何すんだこの女ぁ!」
「ご、ごめんなさい!どうしよう…」
「あぁっ?ごめんですむワケねぇだろ、フザけんな!」
男は女のコの腕を乱暴に掴み、頭から怒鳴りつけていた。
「ヒドい!」
望美は堪らず抗議しに行こうとすると、横を風が通り過ぎた。
九郎さん?
「貴様、そのような事で女子に手を上げるとは!放せ!」
「あ…?なんだテメェは…」
「源九郎義経!」
それはもう、戦の前に名乗りをあげる武将の姿だった。
一瞬、静まりかえる空気。
次の瞬間、男は笑い出す。
「わはははっバカかテメェ?義経だぁ?なんかのドラマ見過ぎじゃねぇ?」
「何がおかしい!早くその女子を放せ!」
九郎は真っ直ぐ睨みつけて、刀を持っていたなら抜いてしまいそうな勢いだった。
男は迫力にたじろぎ、一歩下がる。
「な、なんだよ…オレは悪くねぇぞ」
「いいから放せ!」
九郎の勢いにのまれて、男は女のコを開放したが、しかし男は更に凶行に出た。
よりによって九郎に刃物を向けたのだった。
「ひゃはは、ビビったかよぉ」
「…そのような物で俺は斬れん」
「ダメ!九郎さん」
望美の制止する声も届かず、九郎は相手の懐に飛び込み、アッサリ刃物を奪って男に向けた。